第21話 カラオケだけどいいじゃない!!
音声で伝えられないのが残念。
「ん~~~~」
ようやく終業式が終わった。これから夏休みの始まりだ。
「優希ー、どっか遊びに行こうぜ」
「いいよー。どこに行くの?」
「そうだなぁ……」
「あ、オレ、カラオケ行きたい!!」
カラオケかぁ……
「たまにはいいんじゃない?」
「ん、そうだな」
「……わたし、クーポン券あるから……駅前のところ……行こう?」
「お、いいな……ってなんかもう愛理沙がいきなり入ってくるのに驚かなくなってきたな」
ボクはまだちょっと驚くよ……
「何の話をしているのですか?」
「あ、雅さん。皆でこれからカラオケに行こうって話してるんだけど……雅さんもどう?」
「カラオケ……ですか」
「嫌?」
「いえ、優希さんが行くのであればわたくしも行きたいのですが……なにぶん、行ったことがありませんので」
「なら行ってみようよ。何事も経験だって言うじゃない」
「そうですわね。ご一緒させていただきます」
「よーし、じゃあ後はお姉ちゃん達を誘えばいいね」
教室を出ようとして、ポフッと誰かにぶつかる。むむっ、この柔らかい感触は―――
「お姉ちゃん、これから皆でカラオケ行かない?」
「こいつ感触で見分けやがったぞ!!」
- ☆ - ☆ - ☆ -
そして皆で駅前のカラオケに来た。受付を済ませて部屋に入る。
「ここがカラオケですか……」
「そうだよ。この機械で歌いたい曲を選ぶんだよ」
「なるほど」
雅さんは興味深そうに機械を見ている。まぁ、2台あるしあっちは持たせておこう。
「あたしドリンクバー行ってくるけどなんか欲しいもんあるか?」
「俺はウーロン茶」
「私もそれで」
「オレはコーラ」
「……アイスティー」
「紗彩はオレンジジュースです」
「あ、ボクも手伝うよ。一人で皆の分持ってくるのは大変でしょ」
「んじゃ手伝ってくれ」
「あの、ドリンクバーとはなんですか?」
「飲み物が置いてあるところだけど……知らないの? ファミレスとか行ったことない?」
「ありませんわ」
な、なんというお嬢様育ち……
「じゃあ一緒に来なよ。説明するより見た方が早いから」
「はい。ご一緒させてもらいますね」
というわけでお姉ちゃんと雅さんと一緒にドリンクバーにやってくる。
「ここにコップをセットしてボタンを押せば飲み物が出てくるよ」
「そうなのですか……では、アイスティーを」
恐る恐るといった感じでボタンを押す。そんな難しいことでもないし放っておいて大丈夫かな。
「ただ持ってくのつまんねぇな……カズのコーラにウーロン茶混ぜてやろ」
「ちょ、やめてあげなよってもう入れちゃってるし。大丈夫なのそれ……」
まぁ、そこまで変な味にはならないと思うけど。
「ついでにコーヒーも入れてやれ」
「それはさすがに変な風になるよ!!」
「似たような黒だからバレないだろ」
「味でバレるよ!!」
「気にすんな気にすんな」
あぁぁぁ……どんどん魔改造されていく……
「ゆ、優希さん!! これ、止まりませんわ!! あ、溢れてしまいますぅ!!」
「落ち着いて、ボタン離せば止まるから!!」
そんなこんなでようやく全員分の飲み物を用意して部屋に戻った。
部屋ではさっそくカズくんが歌ってショータイムをしていた。もうすぐフィナーレのようだ。
「ふぃ〜」
「んだよもう歌ってたのか」
「まーな。時間限られてるし目一杯歌わないとな」
「まぁそうだな。ほれ、飲み物」
「お、サンキュー。……ゴッホゴッホ!! なんだこりゃぁ⁉」
あ、やっぱり不味かったんだ。
「なんだよこれ!?」
「なんだよ頼まれたコーラは入っているぞ」
「絶対他の入ってるよな!? コーラ『は』じゃなくて『だけ』入れろよ!!」
「いいだろ別に。同じ黒い飲み物なんだから」
「味も同じにしろよ!!」
「あ、次あたし歌うな」
「聞けよ!!」
カズくんのことは気にせずにお姉ちゃんが歌いだす。ボクもそろそろ歌おっと。
「なににしよっかな~、あ、雅さんは決まった?」
「いえ、まだ……」
「そっか。ボクはバラードにしようっと」
ピッピッと入力する。ちょうどお姉ちゃんが歌い終わった。今まで歌っていたのはアニソンかな?
「ふー」
「今のってアニソンか?」
「そ。最近気に入ってるラブコメでな、主人公の女が好きな先輩のことを振り向かせようと色々やるんだ。下校中に尾行したり休日に先輩の行動パターンを調べ上げたり」
「それ絶対ストーカーだろ」
「後半でヤンデレ化しそうね」
「ヤンデレは怖いです……」
なんでそこでボクを見るの。
「あ、曲が始まった。じゃ、ボク歌うね」
マイクを取ってもらって歌い始める。
「……なんだか、癒されますわね」
「だろ。とりたてて上手いわけじゃないけどなんか癒されるよな」
「いい声です~」
「よーし、オレが盛り上げてやるぜ。タンバリンは任せろ!!」
「歌ってんのバラードだろうが……」
なんだかんだで歌い終わる。
「ふー」
「お疲れ様です。いい声でしたよ」
「ありがとう。次は雅さんが歌ったら?」
「あ、いえ、わたくしはまだ歌う曲を決めていないので」
ふーん? 雅さん、まだ一曲も歌っていないような。ちょっと恥ずかしいのかな。
「……じゃあ……わたしが歌う」
そういって愛理沙さんが入れたのは……ボカロ曲? しかもテンポ早いやつじゃ……
「……マイク」
「う、うん。はいどうぞ。でも愛理沙さん、この曲歌えるの?」
「……大丈夫だ。問題ない」
それ死亡フラグ。
マイクを受け取った愛理沙さんは何時ぞやのゲームセンターの時のようにクワっと目を見開き歌いだした。その声はいつもののんびりしたものではなく、ボカロ曲についていけるような早口だった。
「す、すげぇ!! この曲歌えるのかよ!!」
「いつもと全然違うわね」
「こんな早口な愛理沙さん、初めて見たです」
いやホント意外な姿を見たよ。
「……ふぅ」
「愛理沙すごいな。よくあんな曲歌えたな」
「……照れる」
「なんでそんなゆっくりした口調なのかが謎だな。……っと、飲み物が無くなったな。あたし取りに行くけど誰か欲しいもんあるか?」
「じゃあ私の頼める? 同じのでいいから」
「ようやく飲み終わった……オレも新しいの欲しいな」
「よし任せろ」
「任せらんねぇよ!! 自分で入れに行く!!」
「ちぇー」
お姉ちゃんとカズくんが出ていく。……2人っきりにして大丈夫かなぁ。前にカズくんってお姉ちゃんのことナンパしてたし。ボクがいないのを見計らってまたナンパなんてしたらどうしてくれようかな。生まれてきたことを後悔させたいからとりあえず―――
「あの、優希さん、どうされました?」
「―――はっ!! い、いや、なんでもないよ」
「ならいいのですが……(今、目の光が消えていたような……)」
「それより、そろそろ雅さんも歌わない?」
「い、いえ、まだ曲を決めていないので……」
でも雅さん、まだ歌ってないよね……そうだ。
「雅さん、この曲知ってる?」
「えっと……はい。知っていますよ」
「なら一緒に歌わない? これ、デュエットの曲なの」
「デュ、デュエットですか」
「ダメ?」
「いえいえ、やらせてもらいます!!」
よかった。これで雅さんも楽しめるかな。
「おぉー、雅って歌も上手いんだな」
「何でも完璧にこなすです」
「なにか出来ないこととかないのかしら」
「ただいま〜、お、雅が歌って―――って優希とデュエットかよ!!」
歌い終わって、ジュースを一口飲む。
「あ、お姉ちゃんおかえり~」
「おう。……優希とデュエットしやがって」
「ふふふ、よかったですわよ。二人の共同作業は」
「くっそ、優希!! あたしともデュエットするぞ!!」
「いいよー」
「すいませーん、ご注文の品をお持ち致しました」
歌う前に、店員さんがたこ焼きを持ってきた。こんなの頼んだっけ?
「あ、オレが頼んだんだ。ロシアンたこ焼きだってよ」
「ロシアン?」
「どれか一個がデスソース入りなんだってよ。食おうぜ。当たったら一発芸な」
デスソースって確か、ハバネロで作ったものすごく辛いソースだよね。うぅ〜、辛いのやだなぁ……
「へへっ、誰が当たるかな―――むぐぅ!?」
最初に食べたカズくんの様子が変だ。
「か、辛っ!! み、水ぅ!!」
「お、当たったのか」
「あとは普通のね」
「安心して食べられるです」
「……いただきます」
「よかったぁ。ボク、辛いの苦手なんだぁ。……あちっ」
「大丈夫ですか? 飲み物飲みます?」
「猫舌なんだからちゃんと冷ませよ。おいカズ、さっさと一発芸やれ。歌う時間なくなるだろ」
「薄情だなおまえら!!」
ロシアンルーレットのシーンは限りなく事実に近いフィクションです。
私はどれがデスソース入りか見破り、見事先輩に食べさせることに成功しました。みんな爆笑でした。




