第18話 調理実習だけどいいじゃない!!
三限目。今日の家庭科は調理実習だ。それも1組と2組の合同で行う。体育とか調理実習とかの実習ってなんで合同で行うんだろう? 単純に先生の数が足りないのかな? それとも、ただ管理がめんどくさいからだけだったりして。
「それでは皆さん、始めてください。なにかあったら先生に言ってくださいね」
はーい、と皆が返事をして班ごとに別れていく。
「……なんで違う班なんだよ」
お姉ちゃんが不機嫌そうに言う。ボクだってお姉ちゃんと一緒の班がよかったよ……
「クラスが違うのだから仕方のないことでしょう。さ、優希さん行きましょう」
すっとボクの腕をとる雅さん。なぜだかその表情は勝ち誇った顔に見える。
「てめぇ……これみよがしにくっつきやがって……おまえもデレデレすんな!!」
「してないよ!!」
最近、雅さんからのスキンシップが多いような……なんでだろう?
「さ、作りますよ」
「うぅ~……」
「か、かわいい声を出してもダメです」
「アンタも行くわよ。時間あんまりないんだから」
「ゆ、優希~」
「今生の別れってわけじゃないです」
それもそうだ。
気を取り直して調理を開始する。今回の献立はオムライスと野菜たっぷりコンソメスープだ。
「いやー、優希がいると楽ができていいなぁ」
「ダメだよカズくん。実習なんだからちゃんとやらないと。今回ボクは手伝うだけだよ」
「……マジ?」
「うん、マジ。マサくんも」
「俺もか……」
班の構成は一組いつものメンバー。マサくんとカズくんは料理経験がないみたい。雅さんと愛理沙さんはどうなんだろう?
「二人は料理できる?」
「人並みにはできますよ。お嬢様育ちだからと言って料理ができないわけではありませんわ」
へー、そうなんだ。雅さんのことだから人並みどころかプロのコック並かもしれないね。
「愛理沙さんは?」
「……ランダム」
……ランダム? なにそれ?
「どうゆうことだよ? 栗栖みたいに未確認物質を作り出すのか?」
「それはちょっとやだなぁ」
「……見てて」
愛理沙さんは野菜をいくつか鍋に放り込むと蓋をして火にかけた。
「ちょっ、いきなりなにしてるの!?」
「……いいから」
そのまま何もせずにじっとしている。焦げちゃうんじゃないかなぁ……
「……出来た」
パカッと蓋を開けるとそこには―――
「……レアチーズケーキ」
「「「「……えっ?」」」」
えーと……
「愛理沙さんちょっと待ってて」
「……ん」
愛理沙さんを除いた全員で輪になる。
「ねぇ、どこからつっこむべきだろう?」
「なんで野菜からケーキが出来るんだよ……とか?」
「なんもしねぇでなんで料理が出来んだよじゃね?」
「わたくしとしてはなぜ火を使ったのに冷やした料理が出来るのかが不思議でありませんわ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「「「「どうなってるの(ですか)!?」」」」
「……これがわたしのスキル……神のみぞ知る料理」
なにその中二病みたいな名前。
「……出来る料理は……ランダムに決まる……空腹のときに……鶏がらスープが一リットル出来たときは……悲惨だった」
厄介なスキルだね。
「……ちなみに……お弁当も……開けるたびに……違うものが出てくる」
なにそれ怖い。
「とりあえず、椎崎さんは大人しくしていてくださいます?」
「……ん」
雅さんのやんわりとした戦力外通告に従ってもらう。別なものが出来ても困るしね。
気を取り直して料理を始める。なんやかんやで未だに作り始めていなかった。大丈夫かな……
「とりあえず2人は野菜を切るところから始めようか」
「お、おう」
「任せとけ!!」
「でしたらわたくしはオムライスにかけるデミグラスソースを作りますね」
ん~、オムライスが失敗してもソースがちゃんとしてれば誤魔化せるかなぁ。
「じゃあ、お願いね」
「はい。腕によりをかけて作りますわ」
わーい楽しみ~
「うぉぉぉ……な、なぜだ……なんでこんなに涙が出てくるんだ……だって、男の子だもん」
タマネギ刻んでるからだよ……マサくんはどうだろう?
「よし……いくぞ」
どことなく危なっかしい手つきで野菜を切っていく。見てるとひやひやしてくるよ。
「マサくん、包丁はこうやって使うんだよ」
マサくんの手に自分の手を添えて一緒に切る。
「ほら、こうやるんだよ。わかった?」
「お、おう。ありがとな」
「……やっぱり……優希はライバル……?」
「愛理沙さん何言って―――何してるの?」
愛理沙さんは両腕を高く上げ、右足を膝の位置まで上げている。
「……荒ぶる鷹のポーズ」
「なんでそんなことを……」
「……暇だから」
- ☆ - ☆ - ☆ -
コンソメスープとチキンライスが出来あがり、ついに卵で包む作業に入る。
「まずはボクが手本を見せるね」
熱したフライパンにバターを溶かし、卵を入れて手早くかき混ぜる。半熟のうちに形を整えてふわふわのオムレツを作る。お皿に盛り付けたチキンライスの上に乗せて真ん中を包丁で切ってパカッと開く。あとは雅さんお手製のデミグラスソースをかけて完成。
「こんな感じだよ」
「「できねぇよ」」
「何事もチャレンジだよ。さ、手伝うからがんばって」
二人を手伝いながら愛理沙さんの分も作っておく。1人だけ別なもの食べてるのはかわいそうだし。
「よし、出来た!!」
「なんとかなるもんだな」
「さっそく食べよー」
「……おいしそう」
「あの、椎崎さん。ずっとそのポーズでいたのですか……?」
そうだ、コンソメスープを取り分けないと。それと愛理沙さんのチョコレートケーキも切り分けようかな。……あれ? さっきまでレアチーズケーキだったよね? ……まぁ、深く考えずに食べようか。
「「「「「いただきます」」」」」
パクッと一口
「わぁ……このソースおいしい」
「デミグラスソースは手間をかけるほど美味しくなりますからね。本当はもう少し手間をかけたかったのですが……」
「十分おいしいよ~」
「うまいな。卵は固まってるけど……」
「オレのはちょっと早すぎたみたいだ。けどソースうめぇ!!」
「……美味」
ん~、おいしー。
「料理が逃げ出したーーー!!」
……ぅん? なんか今わけのわからない言葉が聞こえたような。
「優希!! そっち行ったぞ!! 逃げろ!!」
『グォォォォ……ガァァァ……』
なんか人型だけどドロドロしている物体が体を引きずりながらやってきている。
「お、お姉ちゃん!! また変なもの作ったの!?」
「変なものとはなんだ!! オムライスだ!!」
「オムライス!? 巨○兵じゃないの!? 小さいけど巨○兵だよね!?」
「……腐ってる……早すぎたんだね」
「アンタちょっと黙ってなさい」
「美奈!! なんで栗栖に料理させたんだ!!」
「勝手にやってただけよっ!!」
『グォォォォ……』
キュィィィィ
あ、ビーム的ななにか出しそう。
カッ!!
「ん? ―――なんでっ!?」
ドォォォォン!!
「カズくーん!!」
「いやぁ、すごいです。世界が燃えてしまうわけです」
「……これが……ソドムとゴモラを……滅ぼした天の火……ラーマーヤナでは……インドラの矢とも」
「だからアンタら黙ってなさい」
「あの……アレ、どうしますの?」
「あー、放っておけばいいんじゃないか?」
「ま、ビーム一発で溶けるだろ」
その言葉通り、オムライス(?)は崩れていった。なぜか骨っぽいものが残る。
「もう、変な騒動起こさないでよ」
「ブラックホールの生成は食い止めたんだからいいだろ」
「そんなことまであったの……?」
なんですかこのカオス……




