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姉弟だけどいいじゃない!!  作者: 毒の花


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第16話 体育祭だけどいいじゃない!! Part3

お昼休みも終わり、体育祭も午後の部に移行した。2年の棒倒しや、3年の騎馬戦など面白い競技がたくさんある。

そんな中、ボクは保健委員のテントの下にいた。交代でここにいなければならず、けが人に対応しなければならないらしい。といっても、ここで診れるのは軽い怪我だけで包帯が必要なほどの怪我は保健室に行かなければならない。


「はい、絆創膏貼りますね」


「あ、ありがとう」


それにしても、なんか怪我人が多いような……それも男子が。


「つ、次、俺お願いします」


「はーい」


怪我を確認させてもらう。……これなら絆創膏はいらないかも。


「この怪我なら絆創膏はいりませんね。傷口を洗うので清潔に保っていてください」


水で簡単に洗ってタオルでふきふきと拭う。


「はい、終わりましたよ」


「あ、ありがとう」


……なんで顔が赤いんだろう? もしかして風邪気味なのかな?


「まるで甘い蜜に群がるアリみたいだな」


「よっ、来たぞ」


「マサくんとお姉ちゃん? どうしたの?」


あ。ま、まさか怪我でも―――


「暇だから来た」


「な、なんだ……」


「俺は怪我したから来たんだ。ちょっと診てくれ」


「あ、そうなんだ。わかったよ」


……うわぁ。けっこう大きいな。これは絆創膏じゃなくてガーゼのほうがいいかな。


「さっきの話だけど」


「ん?」


ガーゼを貼り付けながら話をする。


「甘い蜜ってどうゆうこと?」


「美少女に診てもらってちょっとでも近づきたいって事だろ」


「なにそれ……」


この学校でボクのことを女の子として見る人はいったい何人いるのだろうか。


「男としての自信が無くなってきたよ……はい、終わったよ」


「お、サンキュ」


「あーあ、手当てしてもらっていいなぁ。あたしも怪我してこようかね」


「ええっ、やめてよ!!」


「そんで優希にはナース服を着てもらう」


「絶対やらないからね……」


 - ☆ - ☆ - ☆ -


「お、障害物競走か」


今だにテントの下にいるお姉ちゃんが教えてくれる。この競技って1年だよね? 参加しないの?


「あたしは出ないんだよ」


「ふーん」


障害物競走なら怪我人が増えそうだなぁ。これから忙しくなるかも。


ふと、グラウンドを見るとなんかものすごい勢いで障害を越えていく人物がいた。その勢いは他の追随を許さない。


「わ、あの人すごいよ。あんな流れるような動きで障害物って越えられる人がいるんだね」


「ん? ああ、3組の枢波亜(すうぱあ)毬男(まりお)か。障害物競走に命をかけている男で日々鍛錬を欠かさないらしい」


なにその努力。障害物競走ってそんなあることでもないよね?


「ちなみに、累次(るいじ)っつー同じく障害物競走に命をかけている弟と比伊智(ぴいち)(ひめ)っつー彼女がいるらしい」


いや訊いてないよ……


「天道君、話してばかりいないで仕事しなさい」


「ご、ごめんなさい」


怒られてしまったので仕事を再開する。お姉ちゃんも帰ってもらった。


「天道君手伝って!!」


「はい―――って、神代さん!?」


突然、先生に呼ばれたかと思ったら、グラウンドで足を抱えて痛そうにしている神代さんが見えた。


 - ☆ - ☆ - ☆ -


「……はい、これでいいわよ」


神代さんを保健室に運び、先生が足に包帯を巻いた。どうやら、障害物競走で捻挫しちゃったみたい。


「今日はもう安静にしていなさいね。帰りも親御さんに迎えに来てもらってね」


「はい……ありがとうございました」


「それじゃあ私は戻るね。あ、天道君も自分のクラスに戻っていいから。シフトは終わったし」


「はい。お疲れ様でした」


「お疲れー」


先生が出て行って2人っきりとなる。しばし、無言の時が続く。


「……行かなくては」


最初に沈黙を破ったのは神代さんだった。


「えっ? 行くってどこに?」


「わたくしはリレーの選手なのですから行かなくてはなりませんわ」


「だ、ダメだよ!! 先生だって安静にしてなきゃって言ってたでしょう!!」


「別にわたくしが走るわけではありません。クラスの誰かに代理を頼むだけです」


「だとしても今は動いちゃダメだよ!!」


「でも、代理を頼むのですからわたくしが直接頼まないと」


「そんなの他の誰かがやってくれるよ!!」


その後も行く行かないの押し問答になり、結局ボクの「今の神代さんならボクでも抑えられるよ!!」の一言で神代さんは大人しくなった。やれやれ……なんでそんなに強情なの?


「……わたくしはまた……あの人の前で無様な姿を……」


ポツリと神代さんが呟くのが聞こえた。


「あの人? ……もしかして、前に言っていたお姉さんのこと?」


「……聞こえてしまいましたか」


「あ、いや、別に話したくないなら話さなくてもいいよ」


「……いえ、聞いてください」


それから、神代さんはポツポツと話しだした。


昔から姉と比較されていたこと。


姉に追いつくために様々な努力したこと。


それでも……追いつけなかったこと。


「あの人は本当に……天才と言っても過言ではありません。わたくしがどんなに頑張っても、追いつけない程に……」


そっか……お姉さんを目標にしているから、お姉さんの前で無様な姿を見せたくなかったんだ。


「両親の期待には応えられず、あの人との差は広まるばかり。わたくしは一体、どうしたらよいのでしょうか……」


神代さんは今まで心の中で抱えていたものを全て吐き出すように言った。


いったい、なんて言葉をかけてあげたらいいんだろう……こういうときに慰めるのはマサくんの役割だと思うんだけど。どこかの主人公みたいだし。


「……頑張り続けるしかないよ。頑張れば、いつか報われると思うから」


「…………」


「って、先生ならそう言って慰めるかもね」


「……?」


あと、マサくんも似たようなこと言うのかな?


「ボクは諦めても仕方ないと思うよ」


「えっ……?」


「頑張っても追いつけないなら……敵わないって諦めるのも勇気がいることじゃないかな」


「そんな……諦めるなんて……」


「諦められなくても、ちょっとくらい休んでもいいんじゃない?」


「休む……ですか?」


「うん。ずっと頑張っていたら、いつか壊れちゃうよ。たまには休まないと」


頑張ることは大事だけど、頑張り続けられる人なんていないと思う。どんな人も、ちょっとは休んでいるんじゃないかな。


「神代さんは今までずっと頑張っていたんでしょう? だったら、ちょっとくらい休みたいって言っても、誰も文句は言わないよ」


「…………」


何も言わず、うつむく神代さん。しばらくして、ポツリとつぶやく。


「……わたくし、少々疲れましたわ」


「そっか。じゃあボクは戻るから、ゆっくり休んで」


ボクは保健室に神代さんを1人残して出ていった。多分、1人でいたいと思うから。


さてと……代理を誰かに頼まないとね。




珍しくシリアスな雰囲気です。

体育祭は次回で終わります。次はいったいどんな話にしましょうか……

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