第13話 雨の日だけどいいじゃない!!
タイトルって考えるの大変ですね……
サアァァァァ…
窓の外では雨が降っている。さっきまでは晴れていたのに急に降ってきた。通り雨だといいんだけど……
「はい〜、皆さん~、さよなら〜」
水澤先生の間延びした声でHRが終わる。
「結構降ってきたな」
「うん。帰るまでにやんでるといいんだけど……」
「HRは終わっただろ。帰らないのか?」
「お姉ちゃんが補習終わるの待ってるから」
「ああ……(ほんとべったりだな)」
「おーい、帰ろうぜー」
「カズくんも補習でしょ……」
そんなこんなで二組のHRも終わり、お姉ちゃん達が来た。
「さぁ~て、帰るか」
「お姉ちゃん補習でしょ。なにサボろうとしてるの……」
「ちっ」
「それにしても時間かかったな。なにしてたんだ?」
「もうすぐ体育祭でしょ? それに出る種目決めてたのよ」
あぁー体育祭かぁ~、運動が苦手なボクにはちょっと憂鬱なイベントだなぁ。
「んで、優勝したら乾の初恋の話を聞けるんだとさ」
……勝手に決められて涙目になりながらうろたえる乾先生の姿が目に浮かぶよ。
「一組は決めてないです?」
「……前に……決めた……負けたら……優希が女装する」
「なんでそんな素敵イベントが!?」
「なに言ってんのよアンタ……でもなんでまたそんなことになったのよ?」
ううっ、思い出したくもないなぁ……
- ★ - ★ - ★ -
「―――皆さんが出場する種目はこれで一通り決まりましたね?」
神代さんが黒板に各種目と名前を書いて言う。達筆だなぁ。
「先生、なにかありますか?」
「それでいいですよ~、え~、もしも優勝できたら~、先生がアイスを奢ってあげましょ~」
おぉー!! と教室がざわめく。アイスは嬉しいな~。
「さっすが先生!! でーぶー♪」
「吉田君は~、なしですね~」
「なぜだぁ!!」
……そこは太っ腹って言うところだよカズくん。
「でも~、優勝できなかったら~、罰ゲームがあります~」
罰ゲーム?
「文化祭の~、ミスコンの余興で~、女装コンテストを~、やるんですけど~、それに誰か出てもらいます~」
……えっ?
「「「「「女装コンテスト?」」」」」
なぜか皆がボクを見る。そしてなにかを考え込み、何事もなかったかのように落ち着く。
……?
…………
「……あっ!! 皆ボクが出ること確定でそれはそれでアリだなって思ったでしょ!!」
「「「「「いやぁ」」」」」
なんで息ぴったりなの!!
「それじゃぁ~、負けたら天道君が出るってことで~」
さらっと流された!!
「優勝目指して~、頑張りましょう~」
「「「「おぉーーー(棒読み)」」」」」
「やる気が微塵も感じられない!!」
- ★ - ★ - ★ -
「というわけなんだよ……」
「なんというか……アンタも大変ねぇ」
本当にね……
「まぁなんつーか、優希はクラスのかわいい妹的な存在なんだよ。だから色々とかまってやりたくなるんだよ」
「……かわいい娘は……自慢したい」
また女扱いされた!! 最近こんなの多いなぁ……
「お前ら時間は大丈夫なのか? あんまり遅いと怒られるんじゃないか?」
「えっ? あー、めんどくせーけど行くしかないかぁ」
「お姉ちゃんも行った方がいいよ。……お姉ちゃん?」
呼びかけても返事がない。なんかブツブツと考え事をしている。
「どうしたの?」
「……あ、悪い。どうしたら1組に勝てるか考えてた」
やめて。
- ☆ - ☆ - ☆ -
みんなと別れて、僕は図書室に来た。雨のせいか人がいない。お姉ちゃんの補習が終るまではここに居ようと思う。
「……あれ?」
図書室には誰もいないと思っていたが1人だけいた。
「神代さん?」
「あら……天道さん?」
机の上に勉強道具を広げている神代さんがいた。
「まだ帰ってなかったんだね。ちょっと意外」
「意外……とは?」
「神代さんならお迎えの車とか来ていそうだから」
なんせお嬢様って聞くし。
「確かに来ていますけど……わたくしはここで勉強したほうが集中できるので待ってもらっています」
「ふーん。あ、ここいい?」
「ええどうぞ」
ボクも机に着いて勉強を始める。常日頃から予習復習は大事だよ。
「……天道さんには」
「はい?」
勉強していたら突然話しかけられた。なんだろう? 神代さんとはあまり話したことはないんだけど……ネロとして会ったことはあるっけ。
「お姉さんがいらっしゃいますよね?」
「うん。いるよ」
「……お姉さんのこと、どう思ってます?」
どうって……
「大好きだよ」
「そ、そうですか」
若干引きつったような顔をする神代さん。なにか変かなぁ?
「神代さんは? 兄弟とかいないの?」
「……姉が1人いますわ。容姿端麗で、文武両道で、人望も厚い、わたくしなんてとても敵わないような人です」
「神代さんよりもすごい? う~ん、いまいち想像できないなぁ」
「あの人に会ったら、そんな考えも変わりますわ」
あの人?
「……仲が悪いの?」
「仲が悪いわけではないのですが……なんだか顔を合わせづらくて……」
「?」
家族なのになんで合わせづらいんだろう?
「天道さんはお姉さんにコンプレックスだとか、そういった感情は―――いえ……すみません。そんなこと、言ってどうなるというわけでもないですね……」
そう言って、勉強に戻る。お姉さんに対してなにか屈託した思いでもあるのかな? もしかして、図書室に居るのもそれが理由なのかな……でも、聞くわけにはいかないよね……
「そうだ。神代さん、ボクに勉強教えてよ」
なんとか重い空気を払拭しようと別の話題を振ってみる。
「ええ、構いませんよ」
神代さんも、どことなくホッとした感じで答えてくれた。
- ☆ - ☆ - ☆ -
「ふぅ……やっと終わった」
あー、補習なんて引っかかるもんじゃないな。次は引っかからないように勉強すべきかな。優希にでも教えてもらうか。まぁ……テスト前までやる気はないが。
「えーと、優希は図書室に居るんだったな」
とっとと帰るために足早に図書室へ向かう。
「っと、着いたか」
ガラッと扉を開けて中を見回す。あ、居た。勉強してる。テスト前じゃないのに熱心なもんだな。隣にいるのは……神代か?
「―――で、こうするとうまく値がでてくるのです」
「あ、そっか。神代さんって教えるの上手いね。解りやすいよ」
「天道さんも呑み込みが早くて助かりますわ」
「えへへ、そうかな」
二人は仲睦まじく勉強をしている。
…………イラッ
「おい優希、さっさと帰るぞ」
「あ、お姉ちゃん。補習は終わったの?」
「ああ。ほら、さっさとしろ」
「わわっ、待ってよ!! それじゃあ神代さん、また明日」
「ええ、さよなら」
「行くぞ」
優希の手を掴んで歩き出す。
「お姉ちゃん歩くの速いよ……いったいどうしたの?」
「なんでもねぇよ」
若干早歩きのまま下駄箱に到着。靴を履きかえて帰ろうとしたが、
サアァァァァ…
まだ雨が降っていた。あたし傘持ってねぇんだよな……
「どうすっかな……」
「あ、ボク折り畳み傘持ってるよ」
「じゃ、それ使って帰るか」
優希に折り畳み傘を出してもらう。……う~ん、小さいぞこれ。2人で使ったら濡れるな絶対。
「そうだ。おまえネロになれよ。そうすりゃ濡れねぇだろ」
「いい考えだけど荷物はどうするの?お姉ちゃんに2つも持たせるわけには……」
「それくらい大丈夫だって。ほら、なれよ。今なら誰もいねぇぞ」
少しの間渋っていたが、優希はネロになった。そしてあたしの頭の上に飛び乗る。
「おまえそこ好きだなぁ」
「にゃ♪」
「……なぁネロ」
「にゃ」
「……やっぱいい。なんでもねぇ」
「うにゃ?」
二人分の荷物を持ち、傘をさして歩き出す。
なぁネロ、おまえほどじゃないが……あたしもけっこう嫉妬深いんだぞ?




