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わたしの初恋相手は姉の元婚約者です。今でも大好きなので、病弱なわたしと思い出作りしてください!  作者: 海空里和
第4章 フローレンスルミナリエ

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 翌年の春、エリシアは無事に魔法学園の二年生へと進級した。


「わ~! すごい人!」


 皇城のバルコニーから身を乗り出せば、下の広場には多くの人が詰めかけている。

 今日は五年ぶりに皇城でフローレンス・ルミナリエが開かれるのだ。そのため城の広場が一般開放されており、喜んだ民が帝都以外からも押し寄せている。

 友好国のヴェンダからも来賓があり、かなり大事になっている。


「もう、仕上げがあるのだから動ないでくださいませ」


 その祭典を披露する一人は、もちろんエリシアだ。

 フィオナは主役であるエリシアを部屋に連れ戻すと、鏡の前に座らせた。


「はい、できましたわ」


 フィオナはエリシアの頭の上に花の冠を置くと、満足げに微笑んだ。


「ありがとう、フィオナ。可愛い……嬉しいな」


 エリシアの頭を彩る花はピンクと白で揃えられ、可愛らしい。ドレスもラベンダー色の上質なオーガンジーが足元でひらりと揺れて可愛い。胸元には金糸で花の刺繍が入れられている。キラキラと金色に輝く小さな宝石が随所に散りばめてあり、光を再現しているようだ。


「エリシアの晴れ舞台ですもの。わたくしが完璧に用意するのは当然でしょ?」


 得意げに笑うフィオナは鏡越しにエリシアを見た。

 

 エリシアとリクスを再現したと言ってもいいこのドレスは、フィオナがデザインしたものらしい。親友の隠された才能にはエリシアも驚かされっぱなしだ。


「会場に向かいましょう? リクス様の準備も終わっているころですわ」


 フィオナと部屋を出れば、アーセルが壁にもたれかかり待っていた。


「殿下、いらしてたのですか?」

「ああ。私が案内役だ。城の中は複雑だからね」


 フィオナはアーセルの婚約者になったらしいが、二人はいつもと変わらない態度で接している。


「ふふ。エリシア嬢、綺麗だよ。リクスより先に私が目にして怒られそうだ」

「そういうことをおっしゃるからリクス様に怒られるのでは?」


 アーセルの軽口にフィオナが苦言を呈すると、彼は笑顔のままフィオナを見た。


「まあまあ。私の婚約者殿の腕が素晴らしいとリクスに自慢したいだけさ」

「……そうですか」


(あら?)


 どうやら、いつも通りじゃないところもあるらしい。よそよそしいところはあるが、二人にしかわからない絆のようなものを感じた。二人はお似合いだ。


 エリシアは歩き出したアーセルの後ろをフィオナと並んでついていく。


「ああ、そういえば兄上の婚約者であるヴェンダの王女もいらしているんだ。久しぶりに婚約者に会えると兄上も喜んでいた。エリシア嬢に感謝していたよ」

「そ、そんな! 恐れ多い!」


 歩きながら後ろを振り返ったアーセルに、エリシアは恐縮する。


「そういえば、お二人の結婚式にもフローレンス・ルミナリエを披露するのですわよね? 衣装はわたくしにお任せなさいね!」


 手をぱんと合わせ、フィオナが意気込む。


「あはは。何だかどんどん大事になっていって、緊張するよ」


 今日の祭典の復活は、エリシアも望んでいたものだが、皇太子の結婚式という大事な行事まで呼ばれるのは予想もしていなかった。


「魔法省も乗り気だからね。毎年一回とは限らず、公の行事には必ず呼ばれるだろうね」

「うう……」


 アーセルがさらにプレッシャーをかけるものだから、エリシアは萎縮してしまう。


「仕方ないね。ルミナリエとフローレンスの結びつきは我が帝国にとっても重要なことだ。国内外に知らしめていく必要がある」


 アーセルの言い分はもっともだ。魔法省長官であるリクスの父は、エリシアを受け入れてくれた。それは祖父との約束もあるが、長官として国のためを思ってのことだ。

 その重責を思えば、足もすくむ。

 ただリクスが好きで、彼の優しさに甘えているだけではダメなのだ。


「自信をお持ちなさい! あなたはわたくしが認めたライバルで、親友。リクス様にも選ばれた女性なのですから」

「フィオナ……」


 感動でフィオナを見つめれば、彼女は意地悪く微笑んだ。


「最初にお会いしたときのあなたのずうずうしさはどこにいきましたの?」

「うっ……」


 それを言われてしまっては、何も言い返せない。

 ふっとフィオナから笑みがこぼれると、エリシアの緊張も解けた。


(あのときはフィオナとこんな関係を築けるなんて思わなかったな)


 一年前を思い出し、しみじみとする。フィオナは今やエリシアにとってクラスメイトなだけじゃない。大事な親友だ。学園でも行動を一緒にしている。二人は今年入学したジーク第三皇子を支えるため、生徒会役員にも抜擢された。リクスが卒業しても楽しく過ごせているのは、フィオナのおかげだった。

 二人が一緒にいることで、表立った派閥もできない。学園内は平和な空気が流れているらしい。


「ほら、婚約者が待っているよ」


 アーセルの呼びかけで前を見れば、先についていたリクスが視界に入る。


「リーク、かっこいい!」


 リクスと目が合うなり、エリシアが歓喜する。

 リクスは魔法省の正式な制服を身に付けているが、ラベンダー色のアスコットタイには、エリシアのドレスと同じ金色の小さな宝石が彩られている。

 国章が入った白いマントはフィオナがデザインしたエリシアとお揃いの花の刺繍が入っている。


 リクスに駆け寄ったエリシアは、彼に手を取られる。


「シアも帝国一綺麗だよ」

「ひゃあ!」


 自分がリクスを褒めるのは良いが、リクスからの甘い言葉は一年経った今でも慣れない。エリシアは顔を赤らめた。


「ははは。二人とも、素敵だよ。私たちの結婚式でもフローレス・ルミナリエをやってもらおうか」


 からかうようにアーセルが二人の間に入れば、リクスがジト目で睨む。


「お前のせいでシアとの婚約が遅れているのに?」

「怖いよ」


 睨まれたアーセルはリクスから目を逸らした。


 実はアーセルとフィオナの婚約がアーセルの卒業を待って行われることになり、リクスとエリシアの婚約発表は間を開けることとなった。二人の婚約発表がなされたのは、つい先日のことだ。


(わたしたちは、この祭典が終わったら発表することになっているんだよね)


 いまだ実感が湧かず、プレッシャーだけが募っていた日々を思い出す。


「ふふ。それならば、とびきりの演出プランを考えなければいけませんわね」

「フィオナ嬢もこいつに乗っかることはないんだぞ」


 アーセルとリクスのやり取りにフィオナが楽しそうに割り込めば、リクスは苦笑した。


(フィオナ、幸せそう。良かった……)


 フィオナはアーセルとの政略結婚に納得していると言っていたが、心ではどう思っているのかと心配もした。しかし何だかんだと二人は上手くやっているらしい。

 フィオナの笑顔にエリシアも安心した。


「さあ時間だ」


 皇子の顔になったアーセルがエリシアとリクスに合図をする。


「わたくしたちも見ていますから、しっかりね!」


 フィオナがエリシアの手を取り、リクスへと渡す。


「行こう」

「うん」


 扉の向こうでは、祭典が始まる興奮からか、すでに歓声があがっている。

 魔法省の人間が扉を開ける配置につく。

 

 一気に鼓動が高まり、エリシアは繋がれたリクスの手に、緊張から力をこめた。


「結婚式か……」


 リクスの呟きに隣を見る。


「なあシア、俺たちの結婚式でもフローレス・ルミナリエをやらないか?」

「それ、いいね!」


 微笑んだリクスにエリシアは即答した。素敵な提案に胸が躍る。


「フローレス・ルミナリエは、わたしたちの約束の始まりだもんね」

「ああ。そして新しい約束を重ねていこう」


 希望に満ちたエリシアは緊張がほぐれて、手の力を緩めた。リクスはそんなエリシアの手を指を絡める形で繋ぎ直した。


「シア、これからも試練にぶつかることがあるだろう。それでも俺がシアを幸せにする。だから俺から離れないと約束してくれ」


 さらに約束を口にしたリクスに、エリシアはすでに幸せだと微笑む。


「わたしもリークを幸せにするわ! 二人で生きていこうね」


 もう全てを諦めて投げ出していたエリシアではない。希望に満ちた目はまっすぐにリクスを見ていた。


 目の前の大きな扉がゆっくりと開かれる。


 前に出ると、大きな歓声が二人を包んだ。


 二人の光魔法と花魔法が会場を彩っていくと、その歓声はさらに大きくなった。

 観客たちの笑顔を見渡し、リクスがエリシアの耳に唇を寄せる。


「まるで俺たちの結婚式みたいだな」

「!! もう! 手元が狂ったらどうするの!?」


 魔法を使っている最中にそんな甘いことを言う。

 観客には寄り添う二人が何を話しているのかなんて、聞こえていないだろう。その証拠に、熱狂がステージ上の二人を囲むように渦巻いている。皆、二人の魔法に夢中だ。


 それでも動揺させたリクスを赤い顔で睨めば、満面の笑みでエリシアを見つめている。その愛おしさを隠そうともしない顔に、エリシアは何も言えなくなってしまった。


(もう! もう! ずるい!)


 リクスは自分の気持ちのほうが上だと言っていたが、エリシアのほうがずっとずっと好きな気がする。そのくらい、リクスの甘さに振り回されているのだから。


 エリシアの顔が真っ赤なまま、祭典も佳境だ。二人は光と花の特大矢を作り上げ、空へと打ち放つ。これは過去のフローレンス・ルミナリエにもない、二人だけのプログラムだ。


 観客たちが全員空へと釘付けになると、リクスはエリシアの腰を引き寄せた。


「祭典をやるたびにシアと結婚式をやれると思えば、何度やるのも悪くないな」

「ひゃ!?」


 二人の魔法は空高く上がったところで、弾ける。光と花びらがキラキラと舞う光景に観客たちは歓喜した。


 花びらが舞い、二人の姿が観客から霧に隠されたようにおぼろげになると、リクスはエリシアにキスをした。それはまるで誓いのキスのようだ。二人の周りをキラキラと発光した花が舞っていく。

 その光景に気づいて観客が溜息を漏らした。光が霧で隠された二人のシルエットを移すと、観客から祝福の拍手がおこる。それが自分たちに向けられたものだと気づかないリクスは、エリシアを離さない。エリシアも幸せなキスに浸っているのだった。


 フローレンス・ルミナリエが見ると幸せになれる「恋の魔法」だとひそやかに噂になるのは、また別のお話。 

このお話はここで完結です!

最後まで応援ありがとうございました!!

読了のお印に下↓の評価☆を押していっていただけると、作者の今後の執筆の励みになります。

どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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