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わたしの初恋相手は姉の元婚約者です。今でも大好きなので、病弱なわたしと思い出作りしてください!  作者: 海空里和
第4章 フローレンスルミナリエ

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 中庭に取り残されたエリシアとリクスの間には沈黙が流れていた。


(うう、どういう顔をしてリークを見れば良いの!?)


 リクスの結婚発言以上に、フィオナの後継者という言葉に恥ずかしすぎて顔が熱い。リクスも先ほどから黙っている。


「――シア」

「ひゃいっ!」


 急に声をかけられ、変な声が出てしまった。

 リクスとの間には変な距離ができていて、先ほどまで手を繋いでいたとは思えないほどだ。

 それがもどかしくて、ええい! とリクスの手を握った。


「――っ!」


 瞬間、リクスに手を払われたエリシアは、弾かれるようにリクスを見上げた。


「リー……ク?」


 リクスの顔は真っ赤だ。エリシアを払った手で顔を隠しているが、それがわかるほどに。それが伝染するように、エリシアの顔も赤く染まっていく。


「ちが……いや、違わないんだが」


 珍しく狼狽えるリクスをじっと見ると、彼の赤い顔がエリシアへと向けられる。


「結婚したいとは言った。その……後継者はまだ早いというか……だからそんなつもりで――いや、もちろんシアとの子は欲しいんだが」

「ひゃあ!?」


 甘いリークは健在らしい。お互いの顔は限界まで赤くなっているに違いない。エリシアは熱を冷ますように手でパタパタと顔を扇いだ。


「シア」


 改まったリクスがエリシアの手を取る。その瞳は真剣だ。

 じっと見つめられ、まだドキドキしているというのに、これ以上は心臓が壊れそうだ。


「まだすべての問題が解決したわけじゃない。だが、俺が必ずシアを守る。だから結婚して欲しい」


 改まってのリクスのプロポーズに、エリシアは夢を見ているかのような気持ちになった。同時に不安もこみ上げる。

 嬉しいのに、この期に及んで尻込みしてしまう。


「わたし、婚外子の平民で……」

「関係ない。それにシアはもうフローレンス侯爵を継いでいる」

「こんな能力があるから狙われるかも」

「俺が必ず守る」

「でも……」


 エリシアの口から出る不安を、リクスが一つ一つ打ち消していく。

 

(リークと気持ちを通わせただけでも幸せなのに、本当にそれ以上を望んでいいの?)


 叶わない想いだからこそ、リクスに躊躇なく気持ちをぶつけてきた。両想いになった今、エリシアはその気持ちをどうすればいいのかわからずにいた。


 結婚となると、いろいろ問題があるに違いない。そう思わせるだけの枷がエリシアにはある。


 素直にリクスの手を取ることも、次の言葉を紡ぐこともできずに下を向く。


「二人でいれば最強、だろう?」

「……!」


 それはいつかリクスに投げかけた言葉だ。彼を見上げれば、リクスは困ったように笑っていた。


「それとも、もう俺のことなんて好きじゃない? 嫌いになった?」

「嫌いじゃないよ! だって、わたしはずっとリークに会いたくて……それだけを思って……」


 想いを口にすれば、目からは涙がこぼれる。

 泣き出したエリシアを引き寄せ、リクスが涙を拭う。


「ごめん。ごめん……シア。君がどんな想いで俺に会いに来てくれたのか気づけなくて」


 ふるふると首を振るエリシアに、リクスは目を細める。


「影が差していた俺の心に光を灯してくれたのは君だ、シア。俺は魔力を失ったと同時に心を閉ざしてしまっていたんだ」


 せっかくリクスが拭ってくれた涙がぼろぼろとこぼれて、エリシアの頬を伝っていく。


「リーク、それはわたしのほうだよ……。わたしはいつかリークに会えると思っていたからこそ、どんな目に遭っても耐えて生きてこられた……っ。再会したリークは少し怖かったけど、優しさは変わっていなかったから……」


 困ったように笑うリクスに涙をこぼしながら目を細める。


「だから、リークのことを変わらずに好きだって思った。誰よりもリークが好き。ずっと側にいたいと願ってしまうくらいに」


 エリシアの告白に、リクスは屈んで涙を拭うように目の下にキスを落としてくれた。


「俺のほうが気持ちは上だって言っただろう?」


 リクスの両手がエリシアの頬を包む。涙で濡れた頬がリクスの温かさで熱を孕んでいく。

 リクスは屈んだままエリシアのおでこに自身のおでこをつけた。


「今度こそ俺と婚約して、シア。前侯爵――おじいさまの代わりに俺がシアを守る」

「――っ!」


 それは六年前にすれ違ってしまった、祖父が進めてくれていた約束だ。


「それで、シアが学園を卒業したらすぐに結婚しよう。ずっと一緒にいたいのは俺も同じだから」


 それは新しい約束だ。エリシアが描けなかった、希望に満ちた幸せな約束。


「っ……! はい!」


 満面の笑みで答えれば、リクスは愛おしそうにエリシアと鼻をこすり合わせた。


「リクス……大好きだよ」


 ふっと笑ったリクスの吐息が口にかかる。


「俺はシアを愛しているよ」


 リクスは勝ち誇ったように自身の気持ちのほうが上だと主張する。

 ふふと笑えば、エリシアはその口をリクスにキスでふさがれた。


 ようやくリクスの手をとることができたエリシアに、まだ不安はあるが迷いはない。

 ただリクスが好きだという想いだけでやってきた。これからもそれで良いのだと、リクスが全身全霊で愛を伝えてくれたから。


 二人の周りを花が舞い、光がキラキラと弾ける。

 魔力を共有しあった二人が生み出した現象に、気づく人はまだ誰もいない。 

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