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わたしの初恋相手は姉の元婚約者です。今でも大好きなので、病弱なわたしと思い出作りしてください!  作者: 海空里和
第4章 フローレンスルミナリエ

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「妹を返せ! いつまで待たせるつもりだ! 早くここに連れてこい!」


 応接室の前まで行けば、ダリオンが騒いでいる声が外まで響いていた。


「シア、大丈夫だ。君をフローレンスに渡す気はない」


 リクスが離さないとばかりに手を絡めてきて、エリシアは安心よりも恥ずかしさで顔が赤くなった。


「私の存在を忘れないように」


 半目でこちらを見たアーセルに、ますます恥ずかしくなる。


「ははは、ぐいぐい行動していた君がしおらしいのもたまらないね」

「おい」


 アーセルの軽口にリクスが睨む。すかさずエリシアを背中に隠した。


「冗談だよ。リクスに夢中な子に横恋慕したって虚しいだけだからね」


 からかうように笑うアーセルに、今度はエリシアがリクスの背中から顔を出し、睨む。けっきょくアーセルが何を考えているのか掴めないままだ。


「二人とも、悪者はこっちだよ」


 肩をすくめたアーセルが扉に手をかけると、中からはガタンと物音がした。


「おい! もうこちらから探しに行くぞ!?」


 アーセルが「ほら」と扉を指さす。ダリオンのほうは、とてもふざけている場合ではなさそうだ。


「シア、必ず守るから」

「リーク……」


 振り返ったリクスがエリシアの両手を包み込む。


「はいはい、開けるよー」


 アーセルは二人の返事を待たずに半目で扉を開けた。するとすぐに怒り狂ったダリオンの姿が目に飛び込んできた。


「ルミナリエ! 妹を返してもらおうか!」


 部屋を出ようとしていたのか、ダリオンはすでに立ち上がっており、リクスに迫って来た。


「シアに酷いことをしておいて、よくそんなことが言えるな」


 エリシアを背中に隠したまま、リクスがダリオンを睨む。


「リクス・ルミナリエ! お前がしたことは誘拐罪だ! 妹は嫁ぎ先に向かう途中だったんだぞ! だいたい、他家に口出しするなんてお前は何様なんだ!」


 ダリオンの抗議に、エリシアはリクスの背中のシャツをぎゅっと握る。

 リクスとエリシアはしょせん他人だ。しかも反発しあう家門同士の子供だ。だからこそダリオンの言うように、エリシアは誰にもどうにもできないと思っていたのだ。


「先に攻撃を仕掛けてきたくせに、負けたからと今度は家のことを口にするのか」


 しかしリクスは表情を崩さずに、ふっと笑った。後ろ手でエリシアの手を握る。たったそれだけで、エリシアの不安は払拭された。


「何だとお!?」


 逆上したダリオンが、リクスに掴みかかろうとして、アーセルが間に入った。ダリオンは仕方なく腕を下ろし、後ろに下がった。舌打ちするダリオンに、アーセルが問いかける。


「そもそも、なぜエリシア嬢がノクーの貴族へ嫁ぐことになっているんだい?」

「それ……は」


 アーセルの問いにダリオンは勢いを失った。しどろもどろになり、冷や汗までかいている。

 帝国にとって、ノクーは注視するべき国だ。だからこそ、エリシアの嫁ぐ先は極秘にされていた。アーセルにそのことが知られてダリオンが焦るのも無理はない。

 ダリオンは無理やり笑顔を作ると、何とか言葉を吐き出した。


「ノクーとの友好関係を結んでおくのはわが帝国にとっても、はたまた未来の皇室にとっても良いことなのではないでしょうか?」

「なるほど。魔力を持った人材を敵国に渡すのが帝国のためだと」


 冷ややかに笑うアーセルに、ダリオンはますます慌てた様子で繕った。


「殿下! エリシアは魔力を持ちません! 我が国に何の損失もありません!」

「エリシア嬢がノクーへ嫁ぐことが決まったのは、彼女の魔力がまだあるときだろう? それとも君は、エリシア嬢の魔力が尽きると前からわかっていたのかな?」

「それ……は」


 ダリオンはエリシアの魔力を吸いつくしてからエリシアをノクーにやろうとしていた。それでもマナがある限り、魔力は復活する。ノクーへ魔力を持つ人間を送ればどうなるかくらいわかっていたはずだ。


(そうか……わたしのマナもリークにしたようにノクーで失わせる算段だったのね)


 もともとリクスに全て渡そうとしていたエリシアは、そこまでの考えに至っていなかった。リクスのマナをノクーに奪わせたと知ったのも最近だ。

 アーセルはおそらくそこまでの真実へたどり着いたのだろう。じりじりと責めるアーセルに、ダリオンは口をつぐんでしまった。


「君たちの父君がなぜ皇城に呼ばれたのか、わかっているのか?」

「は……」


 ダリオンが口を大きく開けて固まったところで、アーセルが応接室の扉を見た。


「ちょうど来たようだね」


 アーセルの言葉に皆の目が扉へと向かった。

 扉が開くと、騎士に連れられたアメリアが姿を現した。


「アメリア!? ジーク第三皇子殿下はどうした!?」


 姿を見るなり問い詰めるダリオンに、アメリアが視線を横に逸らす。顔も何だか青い。


「君たちはジークをこの場に担ぎ上げてリクスを追い詰めたかったんだろうが、そうはさせない。弟はこの問題に関係ないからね」


 ダリオンとアメリアを交互に見て、アーセルが厳しい顔で言い放った。


「な!? アメリアはジーク殿下の婚約者ですよ!? 関係ないなどと……」

「婚約破棄されたのよ! お兄様!」

「は?」


 アメリアの悲痛な叫びに、ダリオンは時が時を止めたかのように顔を固めた。


「だから、私! ジーク殿下に婚約破棄されたのよ! もう婚約者でもなんでもないのよ!!」


 自棄になったアメリアがもう一度叫び、その場がシンとする。


 エリシアもダリオン同様、ぽかんとした。


 アーセルとリクスだけは知っていたのだろう。頷き合う二人を見て、エリシアはまだぽかんとしていた。

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