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わたしの初恋相手は姉の元婚約者です。今でも大好きなので、病弱なわたしと思い出作りしてください!  作者: 海空里和
第三章 思い出を作って

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 メインステージ午前の最後が、エリシアたちの出番だ。ちなみにダリオンとアメリアコンビは午後の最後、トリを務める。去年、二人の花魔法を使った大掛かりなパフォーマンスは話題を呼び、問い合わせが殺到し、今年はチケット制になったからだ。招待客である国の重鎮たちは、毎年特別席が設けられているので、一般客と学園生徒たちでチケットの争奪戦が繰り広げられたらしい。


 メインステージは優れた生徒が選ばれる場であり、国の重鎮たちはこのステージを必ず見ていき、午前と午後の間に学園内を視察する。そしてこのステージには生徒や一般客も集まってくるため、集客は確約されていると言っていい。

 

 一つ前のステージでは、複数の楽器を三人だけで操り音を奏でたとかで、観客を沸かせていた。それらの撤収が終わり、いよいよエリシアたちの出番だ。ドキドキしながら舞台袖に上がる。


「あれ?」


 袖の柱から客席を覗き込んだエリシアは、ぎょっとした。先ほどまで集まっていた観客がごっそりいなくなっている。


「お客さんが少ない……?」


 残っているのは、ルミナリエ派の生徒ばかりで、ぽつぽつと隙間が見える。すると、広場の反対側から大きな歓声が聞こえてきて愕然とした。


 そこには特設ステージが設置されており、ダリオンとアメリアが登壇していた。


「あいつら、何で……」


 リクスも異変に気づき、反対側を見る。二人は観客たちに一礼すると、花魔法を繰り出し、パフォーマンスを始めた。熱狂する会場に、ここにいた生徒たちも何だ? とぱらぱらと会場を離れていく。


(何で!? お兄様たちは午後からじゃ……)


 狼狽えていると、アーセルが慌てて袖に駆けこんで来た。


「やられた! あいつら、学園長を買収してこの時間にぶつけてきた! しかも自由観覧で、チケットを取れなかった連中が殺到しているらしい」

「来賓のみなさまは……」


 一番前に設置された招待席には、いるはずの来賓が誰一人としていない。


「それも学園長が誘導してあちらに連れていってしまったようだ」

「そんな……」


 これでは披露できないのと一緒だ。


「正々堂々と勝負できないほど、俺たちのことを恐れているらしい」


 受けて立つといった表情を浮かべるリクスが頼もしい。


「でも、わたしたちの時間は今だけなのに、どうやって集客すれば……」


 割り当てられた時間は決まっている。せっかくみんなが期待してくれていたのに、兄姉に全てをかっさらわれてしまった。何か企んでいるとは思っていたが、まさかこんなことまでするなんて。


「わたくしにお任せなさい!」


 そう叫んで現れたのはフィオナだ。驚いてフィオナを見れば、彼女も怒っているようだ。


「時間がありませんわ。リクス様たちは始めていてください。集客はわたくしが!」

「私も一肌脱ごう。なあに、誘導された賓客たちも連れ戻してくるよ」


 胸に手を当ててステージにエリシアたちを促すフィオナに、アーセルは悪い顔で笑った。


「私の魔法は時を司るからね。移動は任せたまえ。フィオナ嬢には誘導を頼めるかな?」

「もちろんですわ!」


 目の前でさくさくと打ち合わせをしていく二人にぽかんとしながらも、エリシアに力がみなぎる。リクスと見合うと、お互い頷いた。


「……やるか」

「うん!」


 二人で舞台中央まで歩いて行く。残っていたルミナリエ派の生徒や貴族たちがまばらな拍手で出迎えた。


 エリシアはリクスに目で合図すると、魔法を練り上げる。エリシアの花魔法は渦を描きながら、空に舞い上がった。

 その美しい光景に、目の前の観客たちから息が漏れた。掴みはオッケーだ。

 そこにリクスが光魔法で一本の線を通すと、ぱあんと光が弾けると同時に、花が舞い散った。今度は歓声がおこる。


 二人がフローレンス・ルミナリエを再現していると、どんどん観客は増えていった。目の前の招待席も埋まっていく。その中には、昔一度だけ会ったリクスの父、ルミナリエ魔法省長官の姿もあった。




 特設会場では、フィオナがヴェイユ家の使用人たちを使いながら観客を誘導していた。ルミナリエ派の生徒や貴族たちは彼女の一声でメインステージへと戻っていく。中立派は元々エリシアたちに期待していた生徒が多く、フィオナの呼びかけに戻っていった。大人たちは子供に倣い戻る人もいたが、そればかりではないので商談を武器に半分脅して会場へと戻していった。


「こちらからすぐに戻れますわ!」


 フィオナはアーセルが敷いた転移魔法陣へ観客を誘導し、メインステージへと瞬時に戻していく。賓客たちにはアーセル自ら、ダリオンたちのステージが買収されたことを告発した。そして本来のステージに戻るよう命じられ、まとめて転移でメインステージの賓客席へと戻された。魔法省の重鎮たちを含めた賓客は、予定に沿って視察するのが決まっている。そのためダリオンたちのほうが予定外のものだと知らされ異議なくアーセルに従った。どのみち後でダリオンたちのステージも見るのだ。一緒にいた学園長だけが取り残され、顔を青くしていた。


「わたくしも一刻も早く戻りたいのに、本当に勝手な御方!」


 フィオナが目を向けた反対側のステージは、観客であふれている。アーセルが届けた観客たちだ。フィオナからは舞台が遠い。フィオナが近くで見るのを諦めていると、ふわりと一凛の花が光に乗って彼女の元へと届いた。空を見上げれば、大量の花が空を舞い、観客一人一人の手元へと降り立っている光景が見えた。


「……さすがわたくしのお友達ですわ」


 ふふ、と微笑めば、特設ステージの後ろのほうからざわめきがおこっていく。フローレンス派の観客たちもその美しい光景に目を奪われ、どよめきが起こっていた。ふらりと足の向きを変える者まで出始める。


「ちょっと!? 私たちがまだパフォーマンス中よ!?」


 離れていく観客に、アメリアが手を止め、目くじらを立てる。


「おいアメリア、手を止めるな!」

「こんな状態でできるわけないじゃない!」


 舞台の上では二人が揉めている。しかしそれに目を留める者はいなかった。


 皆に届いた花が、再び空に舞い上がっていくと、ぱあんと花が特大の円を描き、はじける。空には光をまとった花びらがひらひらと舞った。


 その美しい光景に、観客たちは歓喜した。

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