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わたしの初恋相手は姉の元婚約者です。今でも大好きなので、病弱なわたしと思い出作りしてください!  作者: 海空里和
第三章 思い出を作って

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「お前は倒れるのが趣味なのか?」


 医務室で目を覚ませば、リクスの声が降り注いできた。

 呆れた表情をしているが、握りしめられていた手が震えているのがわかった。


「ごめんなさい」


 素直に謝れば、ホッと息を吐いたリクスが説教気味に話し出した。


「お前、魔力量が少ないんだろう? だから無理をすると倒れる。体力や魔力の扱い方、魔法に関する基礎が圧倒的に足りていない。入学したばかりだから仕方ないが……」


 倒れるのは兄姉に魔力を奪われるからだ。本当は病弱なんかじゃない。体力がないのは部屋にずっと押し込められていたから。でもリクスに話すわけにはいかない。

 くどくど話すリクスの話を大人しく聞いていると、


「もう学園祭は諦めたらどうだ。来年しっかり基礎を蓄えて……」


 リクスがそんなことを言い出し、思わず身体を起こした。


「嫌!」

「おい、急に起きたら――」


 慌ててエリシアの背中を支えてくれたリクスを涙目で見る。


「リークは来年の春に卒業してしまうでしょう? 来年の学園祭だと一緒にできない!」


 訴えというよりも、まるで駄々をこねる子供のようだ。エリシアは必死にこぼれそうな涙を我慢した。


「どうしてそこまで……」

「――っ、」


 言いたくない。エリシアは唇を引き結んだ。


「シア……何か理由があるんだろ? 話してくれないか? それとも、俺には言えない?」


 その言い方と表情はずるい。リクスは懇願するように、眉を下げてエリシアを見つめていた。リクスを無下にするなんて、エリシアにはできない。ごくりと息を呑むと、覚悟を決めた。


「思い出が欲しいの」

「思い出?」


 やはりこれだけでは納得しないだろう。リクスはエリシアの続きの言葉を待っている。ぎゅうと胸元を握りしめ、何とか笑顔を作った。


「リーク、わたしね、病弱だから学園を最後まで通えそうにない。お兄様が卒業したら、嫁ぐことが決まっているの」


 ダリオンはリクスと同じく、来年の春に卒業する。アメリアがもう一年学園にいるのだから、エリシアの魔力を利用するかと思っていた。が、アメリアは平民の妹を一刻も早く排除したいらしい。ダリオンは自分さえよければどうでもいいらしい。エリシアの魔力を吸い取ることにより、学園で圧倒的な存在を見せつけられてきた。卒業してしまえばエリシアは用無しだ。あとは父が思い描くように、魔法省の長官でも狙っているのだろう。


 祖父の遺言は、「エリシアを魔法学園に通わすこと」。卒業までとは書かれていない。普通は卒業までと捉えるところを、侯爵である父は逆手にとった。「一日でも通わせればいい」と。父もエリシアを早く厄介払いしたいのだ。散々利用されたあげく、エリシアは捨てられる。病弱を理由に退学させる算段なのも知っていた。


「嫁ぐ……? ああ……そうか、貴族なら政略結婚は当たり前だもんな」


 リクスから実際に声にされてしまえば、絶望で胸が苦しい。政略結婚といっても、エリシアは売られたに近い。しかも、姉の婚約者だったリクスの相手は、本来自分だったことも知ってしまった。未練たらしく思ってしまうのは許して欲しい。今さら何と言おうが、何もかもが遅いわけだけど。


「……ルミナリエが婚約を申し入れたときは決まっていなかったよな?」

「えっ、うん。おじいさまが亡くなってから……」


 エリシアは知らなかったが、婚約を断り代わりにアメリアを差し出したのは侯爵を継いだ父だった。エリシアがノクーへ嫁ぐことが決まったのは、アメリアとリクスが婚約破棄をする少し前だということを思い出す。

 どうして時期を断言できるんだろう。そう思っていると、リクスのまっすぐな瞳と視線がぶつかった。


「そんなもの、俺が――」

「リーク?」


 いつになく真剣で熱い眼差しに、エリシアの心臓がドキドキとうるさい。リクスは一体、どうしたのだろうか。


「――いや。今は学園祭を成功させることを考えよう」

「……一緒にやってくれるの?」


 リクスが何を言おうとしたかは気になったが、それよりも嬉しい言葉にエリシアは反応した。


「その代わり、無理はするなよ」

「リーク、大好き!」


 ふっと笑ったリクスに、エリシアは抱き着いた。エリシアがベッドから落ちないように慌てて支えてくれるのが嬉しい。

 嫁ぐ身だと明かしてもなお、エリシアの気持ちを静かに受け止めてくれる。きゅうっと心臓が締め付けられた。


「婚約者がいるのにそんなことを言って良いのか?」


 アーセルのときのような怒りは感じられない。抱きしめたリクスの体温は温かく、発した言葉にも優しさを感じられた。


「幼馴染としてだから……許して」


 泣きそうで顔を上げられない。リクスに抱きついたまま、ぎゅうっと彼の服を握った。


「シアは、そのままでいい」


 どういう意味だろうか。

 ただ、リクスに伝え続けた想いをまるごと受け止めてくれた気がして、涙が出た。


「シア、学園祭が終わったら――」


 続きは消え入るようにしてエリシアの耳に届かなかった。


 学園祭が終わったら、きっと自由を奪われるだろう。

 エリシアが今からやろうとしていることは、その未来を予感させるに等しい行為なのだから。


(リークにはずっと明るい場所にいて欲しいから……)


 リクスの胸の中で、エリシアは自身の一番の目的を再確認していた。

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