33話 死ぬ、て。
33話 死ぬ、て。
ミシャンドラの効果を見て、思わず舌打ちがこぼれるトコ。
「……リライトとプロットとドラフトはええとして……【プライド】はなんやねん。『死ぬ』、て。なめとんのか」
プライドの『悪い意味でのぶっ壊れ具合』に、トコは肩を落とす。
その後、こめかみに指を当てて黙考。
脳裏の『説明書』をもう一度めくり直してから、
「一回……どれかやってみよか。……んー……『リライト』は怖いから却下。プライドは論外。プロットとドラフトは、逆に、なんで代償がないねん。どっちもなかなかイカつい能力やけどな」
しばし逡巡ののち、手堅く試すと決める。
「……まずは【ドラフト】いこか」
意識のスイッチを入れる。
その瞬間、視界のすべてが、『漫画の下書き』みたいに、雑な線になった。
数秒で、その奇妙な視界は元に戻る。
「ん? あれは……未来、見えてたん? 視界が、寝起きみたいに、ぼやけただけやけど……」
色々と考えてから、トコは腕時計をにらみ、
秒針の位置を記憶してから、もう一度、『下書き層』を覗く。
すると、
「……3秒か……」
視界の中で、秒針が3秒先を示していた。
「……なるほど。3秒先が微妙に見える、と。……んー……まぁ、なにかしらで使えそうではあるけど……3秒なぁ……」
渋い顔のまま、次の項目へ視線を移す。
「ほな、次はドラフトのもう一つの能力……『死者召喚』いこか。……誰呼ぶ? ……んー……まあ、ためしで……太宰とか呼んでみよか」
呼吸を整え、名を思い描く。
空気がわずかに冷え、部屋の隅に墨が垂れたみたいな影が生まれた。
影の縁がゆっくり集まり、人の輪郭を結ぶ。
痩せた頬、うっすら濃いクマ、無造作に垂れた前髪。
古びたコートの襟が揺れ、たばこの匂いが錯覚のように鼻先を撫でた。
「産まれてすいません」
召喚された太宰は、口元に手を置いて、しんどそうに、そうつぶやいた。
「あ、ほんまに言うんや」
トコは思わず笑った。
笑えたのはそこまでだった。
「産まれてすいません」
「……ん?」
「産まれて産まれてウマーー」
語尾が壊れ、音が歪む。
輪郭がノイズにほどけ、
太宰はボロボロの紙くずみたいに空気へ散った。
静寂。
時計の音だけが聞こえる世界。
「……なんか、バグってなかった?」
軽い恐怖が胸をかすめ、トコはため息をつく。
「……あんなもん、クソの役にも立たんやないか。……経験値を一切入れてない初期段階やからかな? ミシャンドラが成長したら、もっとマシになるんやろうか……」




