7話 非礼をわびよう。すまなかったな。
7話 非礼をわびよう。すまなかったな。
『上が止めないのであれば、とことん好きにやらせてもらう』とばかりに、
ベアが、
「そこまでだ、諸君。遊ぶまでは許すが……『オモチャを壊していい』のは、俺だけの特権だということを忘れるな」
低い合図で輪が割れる。
ベアは、ゆっくりと近づき、倒れているセンのアゴを、あえて中指で押し上げた。
「初日に『ナメられないように』とイキがるバカは多い。外でなら、それなりに有効な手段だろうが、この中では悪手だ。……監獄をナメるとどうなるか、身をもって教えてやろう」
その脅しに対し、
センは、
「ぁ、ありがたいね。ちょうど、それを知りたいと思っていたところだ」
センは、己のアゴに触れているベアの手を軽く払ってから、
ゆっくりと立ち上がり、砂を払った。
すこし離れた場所で倒れているヒッキエスは、血を吐きながら、センの背を見つめる。
『ヘイトがあっちに向いてくれて助かった』という安堵が心を包み込む。
同時に、『心配』がこみあげてきた。
(……ぁ、あんな態度で……あいつは生きていられるのか……殺されるぞ……)
ヒッキエスがそう思っていると、
ベアが、センの腹部に思いっきり膝をぶちこんだ。
センは、
「うぇっ」
と、ゲロを吐く。
つづけて、ベアは、センの髪を掴み上げて、頭突きをいれた。
フラつくセンに、
ベアは、
「どうだ? まだ、軽口をのたまう余裕はあるか?」
そう聞かれたセンは、ゲロと血を吐きだしながら、
両手を肩の高さまで上げて、
「お、おーけー、わかった。もうやめてくれ。非礼を詫びよう。すまなかったな。反省するよ」
輪のざわめきが一拍だけ緩んだ。
生意気な新人がすぐに折れたことに対する高揚感、満足感。
数少ない獄中の娯楽。
……ベアが鼻で笑い、
「謝罪一つで贖罪が終わるほど、世の中甘くねぇんだよ。……来い」
センの首根っこを掴んで、ズンズンと歩く。
自分の房へと連れていくつもりの様子。
……取り巻き連中は動かない。
こういう時は見て見ぬ振りがマナー。
刑務官たちも、その行動を無視していく。
これに関しては、センエースの命令を遵守しているから。
――何があっても関与してくるな。
……ヤードの端から通路へ抜ける二人。
砂に倒れたまま、ヒッキエスはその背中を目で追った。
鉄と血の味が舌に残り、肺が浅く上下した。
立ち上がれない。
ヒッキエスの目線にしゃがみこんだラットが、したたかな笑みで、
「よかったな、新入り。今日はあっちがリーダーの相手だ。しかし、明日はお前だろうな」




