6話 最強の新人。
6話 最強の新人。
ヤードの監視台では刑務官が視線を巡回させ、次の区画へ移した。
新人の管理は、囚人リーダーの務め。
仕事を円滑に進めるために見逃されている通例。
ベアはヒッキエスの耳元に口を寄せる。
「マーベル映画じゃないんだ。ここには助けてくれるヒーローなんていない。そんなものはいちゃいけない」
ヒッキエスの絶望が膨らんだ。
……そのとき、ベアは監獄内の変化に気づいた。
「ん?」
輪の空気がわずかに引き締まる。
規則正しい靴音が増えた。
金網の向こうで扉が解錠され、小さな列がヤードに入ってくる。
刑務官二人に挟まれたセンが胸を張って歩く。
まるで王様と家来。
本来であれば、獄中の王様は刑務官のはずなのに……
センは、いつもの長羽織から囚人服に着替えていた。
視線は退屈そうで、欠伸だけがリアル。
輪の視線が一斉にそちらへ向く。
ラットが眉を吊り上げ、
ベアが短く鼻を鳴らして呟く。
「また新人か。……今日は、ひょろいのが多いな。イジメ甲斐があるじゃねぇか」
舌なめずりをするベアの視線の先で、センはヤードの広さを一瞥で測った。
砂の色と風の向きを確かめるように目を細める。
周囲を見渡してから、
センは一言。
「汚物ばっかりだな……消毒しなきゃ」
空気が一拍で硬くなる。
近くの囚人が目を剥いた。
「おい! そこの新人! いま、なんて言った!?」
かぶせるように、周囲の囚人たちが連続して声を出す。
怒号の合唱を前に、
センはニコニコと微笑みつつ、ひらひらと両手を振って、
「わるい、わるい。気にしないでくれ。俺は『心から本気で思っていること』を口にしてしまう悪癖があるんだ」
逆なでする言葉は、火にガソリン。
あまりに炎上しすぎて、怒号が一瞬静まった。
大衆の怒りが同時に呆れへと変わった稀有な瞬間。
「……て、てめぇ、なめすぎだろ……いくらなんでもよぉ……」
ムショの中は血の気の多い奴が多い。
まだ、『センを連れてきた刑務官』が近くにいるのだが、
囚人の一人が、おかまいなしに、センへと殴り掛かった。
「くそがぁあ!」
……最初の拳が、センの鼻を折った。
続けて囚人は、センの髪の毛を掴んで、地面にたたきつける。
さらにセンの背中に落ちる靴裏。
センの背骨が軋む。
普段なら、ここまですれば、流石に刑務官が間に入ってくるのだが、
しかし、今回、刑務官は誰も動かなかった。
ピンと緊張した顔で、センが殴られている状況を見つめている。
いつ、センが核爆弾のように暴れないかと緊張しているのだが、
受刑者たちは、そんな刑務官の心情に気づかない。




