3話 何も知らない罪人たちの中に食い込む閃光。
3話 何も知らない罪人たちの中に食い込む閃光。
「……さて、何人生き残れるかな」
先導の『刑務官』の背筋が粟立つ。
彼は心の中で、
(やはり、犯罪者を皆殺しにするつもりか……恐ろしい……が、正直、『やっちまえ』とも思う……レイプ魔や強盗犯なんか死ねばいいんだ……更生する余地なんかないんだから)
――センを迎えた『刑務官主任』が、無線イヤホンに低く指示を出す。
『所定ルートで搬入。問題なし』
各持ち場の隊員がアゴをわずかに上げて合図を返す。
無線はそれ以上しゃべらない。
決めていた段取りだけが、音を立てずに動き始めた。
センはまたアクビをしながら、スタスタと歩き出す。
足枷の鎖が小さく触れ合い、乾いた音を二、三度だけ残した。
★
――サン・クエンティン州立刑務所。
カリフォルニア州最古級の矯正施設。
湾に面した斜面に、本館、死刑囚区画、
一般棟、医療棟、産業棟、懲罰房が段々に積まれている。
高い石壁と鋼鉄の内柵が三重に走る。
塔は角ごとに立ち、ヤードは人種ごとに自然分離。
白人至上主義、メキシコ系、黒人ギャング、アジア系の島が、目に見えない境界線で切れている。
規律は『チャイム』と『点呼』で回る。
朝の配膳、作業、ヤード、点検、ロックダウン。
ルーチンは軍隊のようで、裏側は市場のよう。
★
――サン・クエンティンには、渋谷事件の後、州矯正局(CDCR)から『臨時の情報運用制限』が下りた。
背後には連邦の安全保障チームの助言がある。
一時的な情報遮断。
対象は受刑者エリア。
共用室のテレビは一時撤去、各房の端末は視聴時間ゼロに設定。
面会での時事ネタは特定のキーワードが出た時点で即打ち切り。
ゆえに、受刑者たちは、あれだけ世間を騒がせている『センエース』のことを知らない。
ここは情報のガラパゴス。
★
――一般棟のランドリー。
回転ドラムのうなりと、柔軟剤と漂白の匂い。
銀の口が開いてバサッとシーツが落ち、乾燥機の扉が金属音を叩く。
作業台の上では網袋が積まれ、札の色で仕分けが進む。
刑務作業で洗濯中の『小柄な男』が台車の影に背を当て、耳をそばだてた。
チャーリー・ラトナー。
通称ラット。
糸クズ以下の噂でも飯のタネに変える鼠。
「どうやら、シャバでなにか、おかしなことが起きているらしい。津波とか竜巻とかそんなんじゃない。大統領の暗殺でもない……もっと激しくビッグな何か……」
声は甲高く、最後の一音だけが落ちていく。
乾燥機のタイマーがチッと刻み、蒸気が白くほどけた。




