2話 スーパーマンは人を殺さない。
2話 スーパーマンは人を殺さない。
――太平洋の向こう。
灰色の湾に、鉄の塀が沈んでいる。
リッチモンド=サン・ラファエル橋の手前で、車列が交差点を封鎖した。
先頭はCHPの白黒。
続いて、州矯正局の白い輸送車。
側面は擦り傷だらけ、窓は金網と防弾フィルム。
ルートは580号を西へ。
左に湾の鈍い光、右にヤードのクレーン。
雲底は低く、雨粒は横に走る。
輸送車の中は静かだった。
定員三十六の長いベンチに、乗っているのは一人。
一番後ろ――いちばん揺れる席。
センは仰向きでグースカと無防備に爆睡。
本人が望んだので、規定通り、足枷・腰鎖・手錠などの拘束具はシッカリとつけている。
鍵はキンピカに新しく、金属は鋭利に冷たい。
車体がジョイントを拾うたび、鎖がかすかに鳴る。
運転手係の『刑務官』が、ミラー越しにセンをチラ見しながら、小声で、
「……ほんとに『アレ』を『収監』するのか?」
助手席の同僚が頭の後ろで両手を組みながら、
「するしかないだろう。『偉大なりし無敵のスーパーマン様』のワガママには逆らえない」
「スーパーマンは、一般人を殺さねぇよ」
「あんたはセンエースが嫌いなのか?」
「好きなやついるのかよ」
「俺は結構好きだぜ。世界のガンと膿を根こそぎ殺してもらいたい」
「……過激だな」
★
列の先頭で輸送車が止まり、静かにアイドリングが落ちた。
湾の風、潮と油の匂い。
茶色い城壁と鉄条網、角ごとに監視塔。
――ここがサン・クエンティン。
州最古級の州立刑務所。
死刑囚棟と一般棟、懲罰房と運動場が湾沿いに詰め込まれている。
囚人は人種ごとに派閥を組み、規律と暴力で日常が保たれている。
……後扉が開き、金属が短く鳴る。
ステップが降りた。
センは腰鎖と足枷の重みを一度だけ確かめ、ゆっくり外へ降りて、
「空気感がいいねぇ……いっそ、全身に『設計図の刺青』でも彫ってくればよかった」
靴裏に固いコンクリートの感触。
頭上ではカモメが鳴き、遠くでローター音が薄くほどける。
門内の受け入れラインは教科書どおりに並んでいる。
ライオットヘルメット、盾、バッジ、タブレット。
誰も近づかない。
誰も急かさない。
『規定どおりの空気』だけが場を支配している。
すべて、センエースが望んだとおり。
――センは正門から棟までを一度、静かに見渡した。
壁、窓格子、塔、二重扉。
全体的には古めかしいが、絶対に必要な部品だけは十分に新しい。
視線が一周して戻ると、アクビをしながら、
「……さて、何人生き残れるかな」




