最終話 命令。
最終話 命令。
――日本、六畳ワンルーム。
トコはまぶたの奥の映像に痺れるような高揚を感じていた。
センが何を本気で言っているのか、どこまでが試しでどこまでが計画なのか、視覚だけでは判然としない。
ただ、いつも、センの一挙手一投足に心が躍る。
彼のエキセントリックな言動が、トコの全てを刺激する。
(監獄……また、頭おかしいことを……あの人は、常に『人の想像のナナメ上』をいかんと気がすまんのか?)
トコの指先が布団をぎゅっと掴む。
センの視界はそのまま会議室の中を留まり、言葉の応酬と沈黙が交互に続いていた。
★
「俺を、この国で一番凶悪な囚人が集まる収容所に入れてくれ」
センがそう口にした瞬間、場は水を打ったように静まり返った。
誰もが耳を疑い、すぐに反応できなかった。
「……え? そ、それは……どういう冗談で?」
財務官がようやく声を絞り出す。
震えていて、場違いなほどか細い。
「……まさか本気じゃ……ないですよね?」
センは答えない。
ただ視線を落として黙っている。その沈黙が、言葉よりも雄弁だった。
財務官は慌てて書類をめくり、机に散らかった資料をかき集めながら、早口でまくし立てる。
「か、仮に……仮に本気だとしても! 収監には司法省の正式手続きが……第百三条、いや刑事収容施設法の適用範囲……国際人権規約の第十条、収監者の処遇に関する……! それに国連人権理事会への年次報告書との整合性、米議会の予算承認、連邦監査院の監督権限……いや、監房規模の収容人数制限も……! 安全保障理事会の承認が要るのか? それとも条約機構経由か? いや待て、そもそも条約上は……!」
声は上ずり、論点は迷走していく。
自分で何を言っているのかも分からない。
とにかく知っている単語を並べて、少しでも脳内を整理する時間を稼ごうとしている。
その空回りを、センが一言で断ち切った。
「ごもっともな意見だな。存分に色々とやってくれ。ただ、時間をかけた結果、俺がどういう行動に出るか……その辺は十分に検討した方がいい……と、老婆心ながらアドバイスをさせていただこう」
机の上の空気が爆ぜるように凍りついた。
誰も息をしていないかのように、場の音がすべて消えた。
「もろもろ悩んでいる様子。では、恐縮だが、俺から『社会的に合理的と断ずるにいささかの躊躇もない最善案』を提示させてもらおうか」
コホンとセキを一つ挟んでから、
「……とっとと俺をムショに入れろ」
痺れる視線で、そう命じた。
★
――日本の六畳一間。
トコは息を吐き、目を開ける。
部屋の薄暗さ、点滅するパソコンのランプ、風の匂いが現実へと引き戻す。
(監獄なぁ……なにするんやろうなぁ……囚人を皆殺しにするとか? ありえんことではないなぁ……)
そうつぶやきつつ、トコは、今しがた見た光景を文章にしていく。
熱量そのままに仕上げた作品を投稿。
また大いにバズった。
バズはバズを呼び、どんどん加速していく。
★
【SNS】
「え、監獄ってマジ? ちょっと意味わかんないんだけど、これ本気で言ってるの…?」
「怖いけどワクワクする。囚人全員、処刑されるんじゃない?」
「センエース神、監獄バイト始めるの? さすがリアル神は多様性あるねぇ」
「勝手に収監されるのはありがたい限り。あんなのが世に放たれていると思うと怖くて夜も眠れない」
「正直、こういう『実行力』に惹かれる層は確実にいる。もし囚人を一掃とかしたら……倫理はさておき支持は集まるだろうな」
――次章、プリズンブレイク黙示録。




