第24話 逆転の遺憾。
第24話 逆転の遺憾。
――ワシントン・ホワイトハウス地下。
夜明け前の会議室。
窓もなく、酸素すら薄く感じるような密室に、怒号が響き渡っていた。
「これはドル体制への反逆だ!」
「放置すれば世界中が真似をする!」
「潰せ! 徹底的に叩き潰せ!」
机を叩く拳。宙を舞う書類。
その叫びには覇権を守ろうとする焦燥が滲んでいた。
だが声を張り上げれば上げるほど、誰もが心の奥で『同じ狂気』に怯えていた。
「……しかし、センエースがいる」
その名を口にした瞬間、空気が凍りついた。
口を閉ざし、息を潜め、互いに目を逸らす。
軍事力でも経済制裁でも測れない、不可測な抑止力。
「日本に制裁? その瞬間、ニューヨークが灰になったらどうする」
「いや……センエースは、自分に銃口を向けた者だけを罰している」
「あと、明確な犯罪者」
「物理的な攻撃さえしなければ、大丈夫かもしれん……」
「…………経済制裁というのは……最も過激な銃口では?」
「「「……」」」
にじんでいたのは怒りではなく、恐怖だった。
その場にいた誰もが、敗北の未来を否応なく思い描かされた。
長い沈黙の末に、口から絞り出された言葉は――
「……日本に『遺憾の意』を表明する」
会議室に漂ったのは勝利の昂揚ではなく、敗北の告白に等しい重苦しさだった。
★
――ジュネーブ・OECD。
豪奢な会議場もまた、動揺に沈んでいた。
「断固非難すべきだ!」
「だが……センエースはどうする? 明確な敵意は、やつの逆鱗に触れる」
「アレは、その気になれば、単騎で都市を壊滅させる事も出来るだろう……」
非難の声はやがて囁き声へと変わった。
代表たちは資料を睨みながらも、
誰一人として強硬論を最後まで言い切れなかった。
「……我々も『遺憾の意』を表明する」
議場に響いたその一言は、まるで敗北宣言の鐘の音のように重く落ちた。
机に突っ伏す者、額を押さえる者。
残ったのは失望と恐怖の吐息だけだった。
★
速報が世界のメディアを駆け巡った。
――【速報】米国、日本に『遺憾の意』を表明
画面を見つめた人々は目を疑った。
それはこれまで、日本が国際社会で幾度となく口にしてきた――弱さの代名詞とも言える言葉だったからだ。
「……アメリカが、遺憾の意?」
「覇権国が尻込みした……?」
SNSは爆発的に盛り上がった。
「逆転きたwww」
「遺憾の意返しwww」
「セン様の抑止力、ガチで核以上」
「今まで日本が言うたびに笑われてたのに、今度は世界が震えてるの草」
世界は笑いながらも震えていた。
覇権国の弱腰は、歴史の節目そのものを示していたからだ。
★
日本国内。
庶民の心に、じわりと誇りが芽生えていた。
商店街の八百屋がテレビを見ながら呟く。
「……『遺憾の意』……今まで散々聞かされてきた言葉。……はは……笑えるな。言われる側に立ってみると……こんなにも滑稽に思えるのか……」
居酒屋のサラリーマンが泣き笑いしながらジョッキを掲げる。
「世界が屈したんだよ! やっと日本が戻ってくる! 失われた時代を取り戻せ!」
深夜の庁舎。
若手官僚が拳を握りしめる。
「……センエース……か……」




