23話 国民債の夜明け。
23話 国民債の夜明け。
――翌朝。
財務省は異例の記者会見を開いた。
壇上に立つ事務次官の表情は硬いが、その声は揺れていなかった。
「――本日より、国民債の発行を検討する。海外の投資家に頼らず、国民自身が国を支える仕組みだ。財務省は、国民の生活を守ることを最優先に据える」
記者たちが一斉にざわめいた。
フラッシュが嵐のように飛ぶ。
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そのニュースは瞬時に全国へ拡散した。
商店街の八百屋が笑った。
「国民債か……さて、どうしたもんかな。……まあ、いいか。乗ってみようかな、このビッグウェーブに」
主婦たちが井戸端で語り合う。
「消費税凍結に加えて国民債……」
「日本がものすごく変わっていく……」
「これって大丈夫?」
「大丈夫だと思いたいけれど……」
大学生のSNSにはハッシュタグが並んだ。
#国民債チャレンジ
「俺たちが日本を買い支える!」
「センエースが保証人なら流石に安全だろw」
購入の実務面についても財務省は即座に説明した。
銀行窓口と専用アプリでの申し込みを基本とし、
マイナンバーによる認証と即時口座引落で申込が成立する簡便な仕組みを設け、
利払いは口座振込と税制上の優遇措置で補うという。
★
――マーケットの動揺
海外市場は牙を剥いた。
ニューヨークではヘッジファンドが円を売り浴びせ、ドル円は乱高下した。
シカゴ先物では『JGBクラッシュ』の見出しが躍る。
実際の場面では、コールレートが急上昇し、短期資金の逼迫が現実の問題として出てきた。
メガバンクのALM(資産負債管理)チームは深夜までリバランスに追われ、
資金繰り表に赤い警告が点灯し、一部銀行はCP発行や流動性バッファの確保を急いだ。
IMFは再び声明を出す。
「国民債はポピュリズム的発想であり、世界経済に悪影響を及ぼす」
格付け会社は速報で『日本国債を一段階引き下げ』と発表した。
東京市場は開幕からパニックに陥った。
★
【SNS】
「格付けが……引き下げ? これ、何が起きてるん?」
「超ざっくり言うと『国の借用書に信用ダウンのスタンプ』が押された」
「日本は海外からとことんナメられているってこと?」
「①国債の値段↓(利回り↑)。国債を担保に金を借りてた人は追加担保=マージンコール→売りが売りを呼ぶ」
「②一部の海外ファンドは規約で『格下げ=自動で売る』。指数連動勢も組入れ比率を下げる→機械的な売りが続く」
「③金利上がる観測で円安方向。先物も売られて『下落→追証』の連鎖が起きやすい」
「ただし即ゲームオーバーじゃない。日銀が最後の買い手。問題は、どの利回りまで、誰の資金で支えるか」
「国民債はその答えのひとつ=国内貯蓄を直接呼び込み、利率+税優遇で内側から資金を回す宣言。海外勢には都合が悪い」
「要は『火事』というより『避難訓練でみんな一斉に出口へ殺到』してる状態。落ち着けば流れは変わる」
★
――財務省の反撃
霞が関・理財局。
若手官僚が報告を持ち込む。
「格下げの影響で、海外投資家が売りを加速しています!」
理財局長は冷静に答えた。
「想定通りだ。――次の手を打つ」
主計局長が頷き、机を叩いた。
「国民債の利率を上げろ。預金より有利にすれば、必ず買う者は出る」
主税局長が追加する。
「購入者には所得控除を。税制優遇で支える」
事務次官が総括した。
「海外の信用を失っても構わん。国民の信用を得る。それが新しい秩序だ」
これまでなら、海外の圧力に屈して実行できなかったこと。だが今なら――。
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――官邸の動揺
首相官邸の危機管理センターでは、与党幹部が青ざめていた。
「国民債? 国民を巻き込む気か!」
「だが、SNSでは喝采一色だ。止めれば我々が叩かれる……」
誰も有効な反対策を出せなかった。
国民の心が動いてしまった以上、政治家は沈黙するしかない。
★
――その夜、財務省の屋上。
センは東京の灯を見下ろしていた。
国民が財布から金を取り出し、自国を支える。
官僚が命を削って戦い、身勝手な政治屋が沈黙する。
海外が怒号を飛ばし、マーケットが荒れ狂う。
静かに風が吹く。
センは目を閉じ、
「――その気になれば何でもできるはずだ。この国の人間は、バカみたいに勤勉で賢いんだから」
天をあおぎながら、
「政府の中枢や、官僚の上位に食い込むような奴の大半は、死ぬほど勉強して、死ぬほど働いている変態ども。環境さえまともなら、最高の結果を出せるはず。できなければ殺す。動けないサ〇ヤ人など必要ない」
世界が変わっていく様を、
センはじっと見つめていた。




