14話 財務省の震え。
14話 財務省の震え。
――テレビ中継。
「――財務省。今から行く。首を洗って待っていろ」
センエースの宣告は、瞬時に全国へ拡散した。
画面の前で茶の間の家族が凍りつき、
株式市場は秒単位で乱高下を始め、
霞が関は蜂の巣をつついたようになった。
★
・霞が関・財務省本庁舎
「全局長を集めろ! 地下会議室だ!」
事務次官が声を荒げる。
主計局、主税局、理財局、国際局――国家財政の中枢が一堂に会した。
「こ、これは宣戦布告だ!」
「応接体制を……」
「いや、SPどころか自衛隊を出しても無理だ!」
声は次第に震え声に変わる。誰も答えを持たない。
「毒谷のやろう……余計な真似を……!」
「あのクソ補佐官がセンを挑発したせいで、こんなことに! どう責任をとるつもりだ!」
会議室がざわめく。
日本が揺れる。
★
・永田町・国会議事堂
与党幹部は官邸に駆け込み、野党議員も緊急記者会見を開いた。
「これは政府の責任だ! ここまでセンエースを放っておいたことを徹底的に追及する!」
「責任? この期におよんで、まだ、そんなことを――」
責任を押し付け合う声ばかりが飛び交う。
その中で、一人の与党ベテラン議員が吐き捨てた。
「ざまぁみろ、財務省。普段から国会を小馬鹿にしてきたツケだ。今度ばかりは守ってやらんぞ」
別の野党議員も鼻で笑った。
「国民も拍手喝采だろうな。世紀の『財務省断罪ショー』。視聴率は爆上がりだ」
「やっちまえ、センエース。今回ばかりは、お前を支持してやる」
★
・首相官邸、危機管理センター
赤色灯が回り、官邸スタッフは血相を変えて走り回る。
「自衛隊に厳戒態勢を! 戦車、戦闘機、全部出せ!」
「でも、撃ったらどうなるんですか? 東京が火の海になります!」
臨時首班(副総理)は蒼白な顔で机を叩いた。
「とにかく、防御態勢を敷くんだよ! 何もしないわけにはいかんのだ! 国民が見ている!」
★
・金融市場
東京証券取引所は開場直後から売り板に気配が並び、実質的に取引が成立しない。
国債先物市場はサーキットブレーカーを連発し、
十年物はリミットダウンに張り付いたまま板が消えた。
『財務省が狙われる=国債暴落』の連想が市場を直撃し、投げが投げを呼ぶ。
ドル円は数分で十数円、瞬間的には二十円近く吹き上がり、FX業者のサーバーは軒並みダウン。
『為替が三円動けば歴史的』と言われる世界で、常識を遥かに超える変動だった。
メガバンクや生保の保有国債には巨額の含み損が突き刺さり、
自己資本比率のシミュレーションが真っ赤に点滅。
取引フロアのディーラーたちはヘッドセットを外し、ただモニターを睨むしかなかった。
『資本不足なら公的資金か?』という声が流れ、
リーマン・ショック時の記憶がフラッシュバックする。
株式市場も東証一部から新興まで全面安。
銀行株は売り気配のまま寄り付かず、
金融セクター指数はストップ安が並んだ。
証券各社のリスク管理部門は『一部口座の強制ロスカット』を始めたが、システムが追いつかない。
マーケット全体が凍りついていた。
為替、株式、債券――三市場が同時に崩れるトリプルクラッシュ。
誰も経験したことのない事態が、リアルタイムで進行していた。
SNSには個人投資家たちの断末魔が並ぶ。
〈退職金全部ぶっこんだ国債先物、サーキットブレーカーで張り付いて逃げられん〉
〈維持率20%割れて強制ロスカット。追証いくら請求くるんだよ……〉
〈ドル円一晩で+20円とか、ゼロカットどころか口座残高マイナスだわ〉
〈SBIも楽天もサーバー落ちてる。ポジ救済どころじゃない〉
〈NISA枠で買った銀行株がストップ安張り付きw 笑えねぇ〉
〈ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア〉
〈IPO当選喜んでたのに一瞬で半値……オワタ〉
〈おい、証券口座凍結されたんだけど!? 資産動かせん〉
〈朝から板見てたけど、全部特別気配で寄らない。完全にゲームオーバー〉
〈追証払えん……自己破産かな。仕事行く意味なくなった〉
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・SNS
スマホのタイムラインは炎上していた。
#財務省死亡フラグ
#セン様御前会議
「ついに財務省が断罪される時がきた」
「公務員のラスボスにラスボスが突撃する構図w」
「明日は仕事休めるかな?(笑)」
一方で不安も広がる。
「もし戦闘になったら、都心に住んでる俺ら死ぬんじゃ……」
「マーケット死んだ、退職金消えた」
「頼むからやめてくれ、俺たちを巻き込むな」
熱狂と恐怖が同時に増幅し、ネットは狂乱状態だった。
★
・自衛隊・市ヶ谷
統合幕僚監部のオペレーションルーム。
レーダーに異常はない。
だが、全員が理解している。
とんでもない災害が都心に迫っていることを。
「戦車中隊を霞が関へ。航空隊は待機」
「……閣下。現場の士気が下がっております」
「わかっている。アレが相手じゃな……」
無線の向こうから、兵士の怯えた声が漏れた。
「俺の家族、都心に住んでるんです……もしセンエースが暴れたら……周辺にいる全員が死にますよね……」
「誤射に気をつけろ。……いつもの方便ではないぞ。本当に気をつけろ。家族だけじゃなく国が死ぬぞ」




