12話 プレゼン。
12話 プレゼン。
――渋谷、朝。
本来、この場を映すカメラは限られていた。
――地上では、若いアナウンサーによる特別インタビュー用の一台のみ。
――上空には、一社の報道ヘリが旋回しているだけ。
それ以外のレンズは、一切許可されていなかった。
――はずだったのに。
毒谷は、自前の専属カメラマンを連れてきていた。
官邸の会議室でも披露した『メディア映えする資料』を、今度は自分専用のカメラの前で焼き直して見せるために。
『国家の代表』を装いながら、実際は『センエースと対等に渡り合う自分の映像』を、後世に残すこと――それこそが真の目的だった。
特注のハイビジョンカメラは、毒谷だけを正面から抜く角度に構えられていた。
毒谷は深々と頭を下げ、用意してきた言葉を響かせた。
「インタビュー中に失礼いたします。……大事な話がございますので、どうか、こちらを優先させていただきたい」
傲慢な態度で、インタビュアーを押しのけて前へ出る。
「ちょ、ちょっと! まだ、私のインタビューは終わって――」
インタビュアーは文句を言おうとしたが、毒谷のSPに腕を押さえ込まれてしまった。
「私は東大を出て財務省を経て国家を背負ってきた。対して、君はマスコミにしか行けなかったテレビ屋だろう? 立場をわきまえたまえ。私は歴史に残る交渉をしにきたのだ。知的好奇心を満たすだけの君のお遊戯とは活動の次元が違うのだよ」
「そ、そんな言い方……」
命を賭して真実を届けようとしていた青年と、自己顕示のために押し出てきた補佐官。
あまりにも分かりやすい対比に、センは苦笑する。
毒谷はネクタイをきゅっと締め直し、ゆっくりと姿勢を正す。
専属カメラマンが角度を調整し、彼のドヤ顔を逃さず捉える。
報道ヘリでもインタビュー用カメラでもない――『毒谷専用カメラ』こそが、彼にとって本番だった。
「センエース閣下。どうか、あなた様のお力をお貸しください。国は今、混乱しております。為政者が責任を取れぬまま、経済も社会も立ち往生している。しかし――多くの善良な国民は、それでも日々の暮らしを守ろうと必死に働いております。彼らを守るために、政府としては『制度』という形で、あなたのお力をお借りしたいのです」
そこから毒谷の口上は止まらなくなった。
財務官僚特有の、数字と制度と横文字を積み上げる『官僚トーク』が延々と続く。
「まず第一に、復興基金の枠組みを再設計いたします。これは、各省庁に分散したままでは非効率です。私の提案は『ワンストップ窓口』――つまり、支援庁を新設し、そこに全てを一元化することです。予算執行の透明化、国際社会への説明責任、国民の安心。すべてがここで担保されます」
毒谷は指を折りながら、次々と『美辞麗句』を並べ立てる。
「第二に、国際協調の枠組みです。各国が恐れているのは『無秩序な神格化』です。ここで我が国が主導して『国際調整機構』を設立すれば、閣下を中心とした秩序ある共生が可能になります。資金は分担金方式で集め、国際的な承認の下で管理する。……その調整役は、当然、日本が担うべきでしょう」
「第三に――」
プレゼンは止まらない。
『多くの国民のため』という枕詞を繰り返しながら、実際には『予算の一元化』『窓口の独占』『国際分担金の調整権』ばかりを強調する。
専属カメラは、そのたびに毒谷のドヤ顔を大写しにしていた。
「しかして、つまりは――閣下。あなた様と日本政府が公式に協調すれば、国内の混乱は鎮まり、国際社会における日本の影響力は飛躍的に拡大するのです。国民のために。世界のために。これは唯一の合理的な道であります」
最後に深々と一礼し、毒谷はにやりと口角を上げた。
――その顔も、専属カメラにしっかり収められていた。
毒谷の長ったらしいプレゼンを、センエースは黙って聞いていた。
長い長い沈黙。風がビルの隙間を渡り、書類の端を震わせる。
「いかがでしょう、神よ」
最後にニコリと笑う毒谷。
心の中で、
(さぁ、頷け、センエース。……ここで貴様が頷けば、俺は歴史に名を残す。そして、金も権力も、すべて手中に……)
毒谷の心臓が高鳴る。
【SNS/日本】
〈おお……ちゃんと制度にしようとしてる。思ったよりまともじゃん〉
〈副総理より毒谷の方が頼りになる〉
〈いや待て、これ中抜きの仕組みを公式化してるだけじゃないか?〉
【SNS/アメリカ】
〈スピーチうまいな、まるで国際会議みたいだ〉
〈でも『ワンストップ窓口』って、実質的に利権の独占じゃ?〉
〈神と交渉して利権を確保する国……終わってる〉
【SNS/欧州】
〈一見合理的、だが『国際調整機構』って完全に支配の口実だろ〉
〈毒谷とかいう男、弁が立つのは認めるが信用はできない〉
【SNS/中国】
〈日本の官僚、相変わらず巧妙だ。自分が窓口を独占するつもりだな〉
〈利用できるが、裏を読まなければ逆に食われる〉
賛否は入り乱れた。
世相が揺れる中、世界の中心にいるセンは静かに毒谷を睨んでいた。




