幕間 エリート層の反応。
幕間 エリート層の反応。
――世界は凍りついた。
渋谷スクランブル交差点から流される《特別インタビュー 生中継》を、
各国の首脳、学者、宗教指導者が同時に見つめていた。
センの声が世界中のスクリーンに響くたびに、
権威の頂点にいる人々ですら、無言で息を呑んだ。
★
【日本/永田町・記者会見場控室】
テレビ画面に映るセンの姿を前に、与党幹部が記者会見の直前に顔を引きつらせていた。
汗に濡れた指がネクタイを弄る。
背後で若手官僚たちも青ざめ、資料をめくる手が止まっている。
「……国民の皆さまに申し上げたい。今回のセンエースの発言は、一つの法治国家として断じて容認できるものではありません。我が国は民主主義国家です。制度と法に則り……」
言葉が濁った瞬間、記者が食い下がった。
「しかしセンエースは『自分は人ではない』と宣言しました。法の外側に立つ存在に、従来の制度は通用するのですか?」
政治家の目が泳ぐ。
「……そ、それは……いま専門家に検討を依頼しておりまして……」
控室にいた官僚たちの喉が一斉に鳴った。
★
【欧州/大学シンポジウム・臨時中継】
巨大スクリーンに映るインタビュー映像を前に、集められた学者たちが席を立った。
倫理学者が声を震わせる。
「彼の言葉……『進化した種族』……これは人権の基盤そのものを破壊する概念だ。我々の理論は通用しない」
歴史学者が机を叩く。
「ナポレオンもヒトラーも『法を超える存在』を自称した。しかし彼は実力で証明してしまった! 我々は今、歴史の分岐点をリアルタイムで見ている!」
哲学者が額を押さえ、苦い声をもらす。
「……恐ろしいのは、彼の言葉が詭弁ではなく、一貫した論理に聞こえることだ。理性の衣をまとった力――それこそがもっとも危険だ」
★
【中東/大モスク・礼拝堂】
スクリーンに映るセンの姿を、数千の信徒が食い入るように見つめていた。
壇上のウラマーは深く息を吐き、語った。
「……もし『すべての命は等しい』というのなら、それは神の慈悲と似ている。だが同時に、彼は『罰する権利』を自分だけに認めた。これは啓示とは呼べない。かといって悪魔の試練と断ずることも出来ない」
群衆の間にざわめきが走る。
「理不尽な神か?」「いや、単なる命に対する冒涜だ」――低い声が幾筋も交錯する。
誰も答えられず、ただ画面に釘付けになっていた。
★
【アメリカ/CNN緊急討論スタジオ】
インタビューの映像が背後の大画面で流れ続ける中、
憲法学者、軍事アナリスト、牧師が椅子に座り、真剣なまなざしを送っている。
司会が問いかける。
「この前代未聞の発言……センエースは『自由や民主を否定した』と言えるのでしょうか?」
憲法学者が即座に言う。
「イエスだ。『俺のルールが絶対』とは、法の死を意味する」
軍事アナリストは眉をひそめた。
「だが現実的に、彼に逆らえる軍は存在しない。抑止も均衡も無効化される。……これは戦略的敗北を意味する。我々はすでに打つ手を失っている」
牧師が目を閉じ、低く呟いた。
「……人類は問われている。神に従うか、抗うか。だが――そのどちらにも救いはないかもしれない」
★
【中国/国家学術院・会議室】
国家主席の背後で、理論物理学者がテレビに釘付けになりながら語った。
「……『進化』という言葉は科学的根拠に乏しい。だが、現実に我々の理解を超える現象を示している。国家としては、いかなる挑発も避けるべきだ」
官僚たちは互いに耳打ちする。
(民衆に『天命が移った』と受け止められれば、政権基盤が揺らぐ。情報の統制が急務だ)
(……しかし締め付けを強めれば強めるほど、民心は離れていく。板挟みだな……)




