9話 いてまえ、センエース。
9話 いてまえ、センエース。
「あの人の考えてることなんて、私には何もわからない」
ユズの言葉に、トコは視線を外しながら、
(財務省……どうなるんやろ……まさか、省庁ビルごと吹っ飛ぶとかはない……よな……)
などと考えていると、ユズが、
「薬宮、あんたは?」
「ん? はい?」
「あんたは、あの人の考えていることが……ちょっとは分かったりするの?」
「……」
数秒の沈黙を経て、
トコは、
「……わかるわけないやん」
言葉と裏腹に、胸の奥で心臓がひとつ、強く鳴った。
★
トコとユズが教室に戻ると、そこはお祭り騒ぎだった。
「やべぇ! どうなんの、これ!」
「エンターテイナーだなぁ、センエース!」
「もう、いっそ、センエースが国を運営するでいいんじゃない?」
★
職員室でも、教師たちがざわめいていた。
「税金、やすくなるか?!」
「いや、一気に解体までいくんじゃないだろうか?」
「やったれ、センエース!」
「年金問題どうにかして!」
「社会保障を10パーセントぐらいにしてくれないかな。ウチの子、来年から大学いくんだよ」
「10パーセントになったら、財源、どうするんですか、伊藤先生」
「そんなもんは、センエースがなんとでもしてくれるでしょう」
★
SNSは「#財務省 #センエース」でトレンドが埋まり、世界中が狂乱していた。
タイムラインは、賛否と興奮と罵声と祈りでごった返す。
「ついに本丸きた! #財務省 #センエース」
「歴史が変わる瞬間をリアルタイムで見てる気がする」
「頼むから税率下げてくれ……住宅ローンで首回らん」
「いや待て、これ普通にクーデターだろ」
「いまさらだろ。これまでもずっとクーデターだよ」
同時接続数は桁違い。
ニュース配信サイトのサーバーは何度も落ち、動画は数秒ごとに止まる。
それでも誰も目を離さない。
この瞬間、日本中、いや世界中の視線が『財務省に向かう怪物』に集まっていた。
★
――教室。
全員が机の上にスマホを並べ、ニュース映像に釘付け。
教師が慌てて入ってきて『席につけ!』と叫ぶが、誰も聞かない。
「先生も気になるでしょ?」
生徒の一人にそう言われて、若い教師は唇を噛み、やがてうなずいた。
「……今日だけ、特別だぞ」
モニター越しに映るのは、財務省の正面玄関。
自衛隊と警察官、高官たちが整列している。
その奥へ――黒い影がゆっくりと近づいていく。
――怪物センエース。
足音が、マイクに拾われ、コンクリートに反響していた。
世界中が息をひそめ、その一歩一歩を見守っていた。




