8話 鳴りやまないスマホ。
8話 鳴りやまないスマホ。
――廊下の角。
全校集会を終え、生徒たちはもう教室に戻っていた。
人の気配が遠ざかった静かな空間で、トコとユズだけが立ち止まっていた。
「あんたはセンエースのなんなん?」
ユズの問いに、トコは一瞬押し黙る。
視線を逸らすでもなく、ただ心の奥で言葉を探しているような間。
ユズは一歩詰め寄り、声を低めた。
「……『転生文学センエース』。あの作品には……センエースの内面とか、過去とか、普通の人なら絶対に知らないことが多く書かれてる。あんなものが書ける理由……合理的に考えれば、『センエースに書けって言われてる』から。……違う?」
「あー……えーっと……」
トコは曖昧に笑ってごまかそうとしたが、言葉が続かない。
(どうしようかな。ほんまのことを言うてもなぁ……)
その時だった。
――ピロン。ピロン。ピロン。
廊下の片隅、中庭に残っていた生徒たち、各教室、職員室……。
校内のあらゆる場所で、スマホの通知音が一斉に鳴り響いた。
まるで地震速報のような一斉通知。
校内チャットが『新着』で埋まり、誰もが同じ情報を見ていた。
【速報:センエース 財務省に向け出発】
【声明:「財務省。今から行く。首を洗って待っていろ」】
「……え、マジ?」
ユズが固まった。
トコは目を細め、吐息のように言った。
「あの怪物くん、ついに……そこに切り込むか……」
二人の間に緊張が走る。
ユズが、トコの横顔を疑うように見つめた。
「なに、その……驚いたフリ。本当は知ってたんでしょ? 転生文学の作者なんだから」
ユズの声には棘がある。
本人ですら制御できない嫉妬のバラ。
「それとも……もう捨てられて、情報をもらえなかったりして?」
「……捨てられることは、ありえへんよ。まず、拾われてへんから」
ユズの毒をサラっと流していくトコ。
ユズの目が一瞬揺れる。
トコは、淡々と続けた。
「……あたしは、センエースがやったことを文章にしただけや。センエースの過去とかは、ただの想像。この辺は、ただの創作とか、情報処理の才能にすぎん」
「……」
ユズは口をつぐんだ。
嘘か本当か、どこまでが境界なのか――見極めようとするようにトコを睨む。
だがトコは、スマホの速報を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「さて……どうなるんやろうか」
「……さぁ」
ユズは視線を逸らし、唇をかすかに噛んだ。
「あの人の考えてることなんて、私には何もわからない」




