トコ20話 コピー。
トコ20話 コピー。
ロキは荒い呼吸を繰り返していた。
増幅されたパワードスーツをまとってなお、一撃もセンに届かない。
額から滴る汗がにじみ落ち、呼気は獣のように荒かった。
「はぁ……はぁ……ひ、卑怯だ!」
ロキは吠えた。
「安全圏から人を見下す神よ! 貴様はただ、強い肉体に守られてイキっているだけの卑怯者だ!」
センは、まるでつまらない冗談を聞いたかのように片眉を上げた。
その声は、余裕と退屈を滲ませている。
「……じゃあ、条件を公平にしようか? ――【コピー/ランク29000】――」
パチン、と指を弾いた。
空気が一瞬だけ震え、生徒たちが息を呑む。
センは両手をゆっくり握り開き、肩を軽く回す。
そして、平然と告げた。
「握力も、反射神経も、視力も聴力も――今の俺はお前とまったく同じだ」
「なに……?」
ロキの喉がごくりと鳴る。
センは床に転がっていたナイフを拾い上げ、ためらいなく自分の前腕をスッと切った。
赤い血が細い線を描き、滴り落ちる。
それを見せつけるように差し出しながら、笑みを浮かべる。
「ご覧の通り、今の俺の肉体は人間そのものだ。お前の拳でも、十分に俺を殺せるぜ。やったね、ロキちゃん」
体育館にどよめきが走った。
ユズは口元を押さえ、トコは奥歯を噛みしめる。
「な、なにしてんねん、あの怪物くん……」
誰もが目を疑った。
だがロキだけは、冷静に、ニっと笑い、
胸の奥で確信めいた声を響かせた。
(これで……互角だ。いや、肉体が互角なら、武道に長けた俺が勝つ!)
心の中でそう叫んでから、ロキは宣言する。
「……驕りを見せたな神よ……人にすくわれるがいい、その足元!!」
次の瞬間、二人の肉弾戦が始まった。
拳と拳がぶつかり合い、蹴りと蹴りが空を裂く。
条件は完全に対等――のはずだった。
しかし――。
「ほらほら、どうしたロキ」
センは軽やかに身をひねり、拳を紙一重で避ける。
「ヘイヘイ、足元がお留守だぜ。ギャルがパラパラ踊ってんじゃねぇんだから、もう少し機敏に動いてくれや」
「ぐ、くそぉおお!」
ロキは咆哮し、渾身の回し蹴りを放つ。
だがセンは動じない。
わずかに足首を押さえるだけで、威力を殺し、次の瞬間には掌底をロキの胸へ。
ドン、と衝撃が走り、ロキの体は数歩よろめく。
床を削り、片膝をついた。
生徒たちから歓声があがる。
「センエース、強ぇ!」
「やべぇ……!」
その中でユズも、思わず拳を握りしめていた。
「が……がんばれ……」
かすかな声が漏れる。
本気で他人を応援したのは初めてだった。
これまで男の試合を見に行ったことはあったが、
いつも、冷めた目で見つめていただけだったのに――。
今、彼女の心は、人生で一番、燃えていた。
「ば、馬鹿な……!」
ロキは荒い呼吸の合間に叫ぶ。
「同じ肉体なら互角のはずだろう……! 嘘を……嘘をついたなぁあ!! 人を騙して楽しいか、神よ!!」
センは、鼻で笑いながら、
「俺がお前ごときに嘘をつくかよ。……同じキャラを使っても、全一プレイヤーと素人じゃ、勝負にならないってだけの話だ」




