トコ16話 攪乱。
トコ16話 攪乱。
――体育館。
ロキは壇上に腰かけ、片手でタブレットを弄んでいた。
兵士からの通信が一つ、また一つと途絶えていく。
ヘッドセット越しに、雑音だけが残る。
「……ふむ」
ロキは顎に指を添え、薄く笑った。
「これは……ただの電波障害じゃないな。アタックだとみるのが正しいだろう」
赤く点滅する通信ログを、退屈そうに眺める。
次の瞬間、唇の端が愉快そうに吊り上がった。
「くく……まるでダイハ○ドじゃないか。面白いねぇ。どこのエージェントか知らないが……ウチの兵隊相手に、どこまでやれるか見物だな」
声には余裕しかなかった。
ロキにとって、これはあくまで余興。
センエースと対峙するその瞬間までの、暇つぶしにすぎなかった。
★
一方その頃――校舎の別棟。
「よっ……と」
パワードスーツをまとった薬宮トコは、教室の窓から軽やかに飛び降りた。
補助動力が衝撃を吸収し、無音に近い着地となる。
目の前には、慌てふためく武装兵士たち。
ラックから切り離された銃器はすでに沈黙し、
パワードスーツの残骸も赤い警告灯を灯している。
「ど、どういうことだ……制御が効かねぇ……!」
「武器が反応しない!? 再起動もできんぞ!」
おろおろとパネルを叩き続ける兵士たちに、トコは肩をすくめた。
「……そらそうやろ。システム、あたしが落としたんやから」
次の瞬間、トコの右腕がうなりを上げた。
パワードスーツに内蔵されたアクチュエータが、信じられないほどの加速を生む。
兵士の腹部に叩き込まれた拳は、壁にめり込むほどの衝撃を与えた。
「ぐあっ……!」
吐血と共に崩れ落ちる兵士。
致命傷ではないが、骨は折れているだろう。
「……殺す気はないけど、この威力で攻撃されたら障害は残ると思うで。あたし、ゲームの操作とか、そんなにうまくないから、微調整は無理やねん。ま、高校生相手にテロリズム気取ったんやから、自業自得ってことで」
淡々と呟き、次の兵士を掴み上げる。
首根っこを押さえつけ、床に膝をつかせる。
「ひっ……や、やめろ……!」
「質問に答えてくれたら、すぐ離す」
冷静な声。
恐怖で震える兵士の肩がびくびくと揺れる。
そんな彼に、トコは冷静に、
「お前らのリーダーは誰? どこにおる?」
「り、リーダーはトリックスター……サルバトーレ・ロキ……体育館の中央に……!」
「ロキ……ねぇ」
トコの眉がわずかに動いた。
(……救世主ロキって……都市伝説で聞いたことある名前やな……裏社会のフィクサーにして、最強の武力を持つ悪の神みたいな。……ヘドが出るほど厨二くさいウワサやと思うとったけど、マジで存在するとは……)
短い沈黙ののち、トコは、
「……」
一瞬の逡巡を経て、兵士の両足をへし折ってから、床に転がした。
「殺されんかっただけ、ありがたいと思ってな」
呻き声を背に、彼女は再び歩き出す。
「……ぁあ、もう、体痛い……衝撃吸収も限界あんねんなぁ……運動神経はともかく、耐久度とか体力とかは、そんな自信ないねん……はぁ……」
パワードスーツの補助動力が低く唸り、足取りは迷いなく体育館の方角へ向かっていた。




