セン7話 暴徒と怪物の声。
セン7話 暴徒と怪物の声。
――渋谷の夜明け。
センエースは、交差点のど真ん中で眠っていた。
その寝息は世界中にライブ配信され、半ば伝説の映像と化していた。
大半の者が、センエースの寝姿に釘付けになっている朝。
各地で、じっとりと、異変が広がっていた。
――大阪・難波。
黒い布を頭に巻いた集団が叫びながら銀行に突入する。
「センエースの名のもとに、腐った金を取り戻す!」
ガソリンを撒き、火を放つ。
炎が瞬く間に街路を覆い、逃げ惑う市民の悲鳴が木霊した。
――名古屋。
白装束をまとったカルト信者たちが、『センエースノミコトを信じぬ者は悪魔だ』と唱えながら通行人を殴り倒す。
警察官が制止に入るが、群衆の暴力に押し流される。
――九州。
元過激派の残党が武装蜂起し、『センエース革命神軍』を名乗って官公庁を襲撃。
銃声が響き、市街はパニックに陥った。
★
【NHK 緊急特報】
『全国各地で【センエース支持】を名目にした暴動が発生しています。火炎瓶、銃器の使用も確認されており、警察当局は対処不能との情報――』
海外でも連鎖は始まっていた。
東南アジアの都市では『センの神兵』を名乗る集団が観光客を拉致。
中東の武装勢力は『我々こそ正統なるセンエースの代理人だ』と宣言。
混乱は一夜にして国境を越えた。
――日本国内の臨時政権は、官邸で頭を抱えていた。
「見ろ! 世界中で暴動だ! いずれはこうなると思った!」
「センエースを支持するバカ共が暴徒に加担している!」
「やはり奴は悪魔だ! 国を壊す害悪だ!」
叫び声だけが飛び交う。
誰も止める術を持たない。
――その時だった。
渋谷スクランブル交差点。
眠っていたセンが、ゆっくりと目を開けた。
「……出たな。蛆虫ども。分かっていたぜ、お前らみたいなカスが出てくることは。なんせ、俺の『高校時代の得意科目』は世界史だったもんでね」
次の瞬間、世界中のモニターが一斉にノイズに覆われた。
スマホ、テレビ、ラジオ――全てが同じ声で満たされる。
センの声が響く。
「俺を理由に罪を犯した奴は――問答無用で極刑だ」
言葉と同時に、各地の暴徒が一斉に『黒い渦』に呑まれて消えた。
大阪の火を放った集団も。
名古屋のカルト信者も。
九州の武装蜂起も。
海外でセンの名を騙った連中も。
一瞬で静寂。
街には血痕一つ残らず、ただ虚ろな余白だけが残った。
センの声は続く。
「これまで、神は地上にいなかった。だから『神を理由』に戦争でも虐殺でも好き放題できた。だが――ここには俺がいる。不愉快な愚行は、絶対に許さない」
★
――日本SNS
「暴徒が一瞬で消えた……! 街が静かになった!」
「やっぱり救世主だ! 悪党もカルトも一掃してくれた!」
「いや待てよ、怖すぎるだろ……思想の自由すらなくなったってことじゃないのか?」
「神が本当にいるって、こういうことなんだな……」
「あの殺人マシンを神って呼ぶの、やめようぜ」
――アメリカSNS
「一瞬で暴徒を消滅させただと? 司法も軍も無意味だ」
「これは人類史上初めての『本物の抑止力』かもしれない」
「いや、独裁だ。神の名を口にしただけで死刑なんて」
「だが、街は平和になったんだろ? 正義ってのは残酷なものだ」
「その考え方は危険だよ」
――中華人民共和大国SNS
「暴徒を消し飛ばした……」
「思想統制だ! 人々の口を封じる悪魔!」
「だが事実、街は浄化された。結果がすべてだ」
「我が国の腐敗幹部も、あれで消してほしいものだな」
★
※各国為政者の声(報道抜粋)
【アメリカ大統領】
「我々は深い懸念を抱いている。しかし、同時に都市の暴動が沈静化したことも事実だ。自由と人権を守る国として、どう対応すべきか、時間をかけて協議する」
【中華人民共和大国主席】
「秩序を維持するための行動であったと理解する。我が国は安定を最重視する。だが、主権を侵す存在は容認できない」
【欧州連合代表】
「人類史において未曾有の状況だ。国際社会は、この存在を『神』として扱うべきか、『史上最も危険な独裁者』として扱うべきか、決断を迫られている」
※宗教界の反応
【バチカン枢機卿】
「彼の存在は、キリスト教の二千年の信仰を根底から揺るがす。だが同時に、『神を理由に殺すことを禁じた』という事実は無視できない」
【イスラム学者】
「唯一神以外を神と呼ぶことは冒涜だ。しかし、彼が語った言葉――『神を理由に戦争をするな』は、我らの教義にも通じる」
【日本仏教界 高僧】
「姿かたちはどうあれ、『殺生を禁じる』と宣言したのならば、それは一つの悟りだろう。だが、力をもって強制するその在り方は、仏道とは相容れぬ」
群衆は震え上がった。
救われたと泣き崩れる者。
悪魔だと叫ぶ者。
ただ呆然と空を仰ぐ者。
世界は、初めて『絶対的上位者に支配された時代』を生きる。




