トコ10話 史上まれにみる文豪。
トコ10話 史上まれにみる文豪。
――六畳のワンルーム。
「……やば……またバズっとる……」
薬宮図子はベッドの上で膝を抱え、ノートPCを前に固まっていた。
更新を押すたび、数字は跳ね上がる。
PV:48万。
ブクマ:1万7千。
EXP:52万。
その瞬間、画面に冷たい文字が浮かんだ。
〔PS/SYSTEM〕
《文章系スキル:レベル10解放》
「……おっ。10が解放された。ほな、全部10にあげとこか。センの記憶と比べて、妙に安いし」
クリックのたびに、スキル欄が光で埋まっていく。
《構成補正Lv10》
《比喩圧縮Lv10》
《文体適応Lv10》
《リズム同期Lv10》
《心理浸透比率Lv10》
《読者離脱熱マップΩ》
(センの記憶は数十万、数百万も要求してくるのに……文章スキルは一個数百とか千ちょいで上げ放題。これは、センの記憶が重すぎるんか、それとも、文章スキルが安すぎるんか……)
などとトコが思っていると、コメント欄がざわつく。
『この作者、最初の頃と別人じゃね?』
『文章が死ぬほどうまくなってんだけど……』
『編集者通してるプロ作家より完成度高い』
その中に、一つ、異質な評論があった。
『最新話における叙述の転調は特筆すべきだ。まず、冒頭の情景描写において【熱】という抽象的感覚を物理的に描写へ落とし込む手法――これは20世紀フランス実存主義文学に見られる冷徹な手つきに近い。さらに中盤のテンポ制御は、村上春樹的な【リズム小説】の要素を想起させる。比喩の圧縮が過剰に尖鋭化しているにもかかわらず、文体の統一感が崩れていない点は、単なるアマチュアの実験では説明がつかない』
――沈黙。
直後にタイムラインが湧いた。
『ガチ評論家まで出てきたwww』
『え、待って。この文体、【クロサン】じゃね?』
『たしかに。っぽいw』
『え、マジで本人降臨してんの?www』
『黒瀬 燦、ヒマかよ』
『直木賞作家、仕事しろ』
熱狂、賞賛、冷笑、ガチ評論。
すべてが渾然一体となって『転生文学センエース』を押し上げていった。
その感想を見ながら、トコは、
(褒められても、全然嬉しないな……あたしの力ちゃうしなぁ……)
などとつぶやきつつ、
トコは視線をシステムにうつして、
「それよりも……50万たまった……ついに見れるで。センの記憶の続き」
トコはワクワクしながら、クリックした。
――〔PS/SYSTEM〕
《センの記憶・遠景》を解禁します。




