157375話 あんたはあたしに、自由と孤独を教えてくれた。
157375話 あんたはあたしに、自由と孤独を教えてくれた。
喜々として叫ぶトコ。
その横顔に恐怖の影はない。
あるのは、やり遂げた者特有のすがすがしさと、どこか投げやりな諦念だけだった。
そんな彼女に、センは、真剣な顔で、
視線をまっすぐ向ける。
軽口ひとつ挟めないほど、表情筋が固まっていた。
「アホか。使うな、そんな異能――」
声が低くなる。
怒りと焦りが入り混じり、言葉の端々が荒くなる。
冗談で済ませるには、あまりにも割に合わない代償だった。
「何言うても無意味。もう使ったから。あ、これ、あたしの形見な。額縁にでもいれて飾っておいて」
トコは肩をすくめて笑い、ノートをポイと放る。
白い長方形が空中で回転し、センの胸元に向かってふわりと飛んできた。
センは反射的に手を伸ばし、それをしっかりと受け止める。
それは紙切れにすぎないはずなのに、落ちてくる質量はやけに重かった。
「……」
無表情の奥で静かに青ざめているセン。
口を開こうとしても、言葉がうまく形にならない。
彼の中で、冷静な戦闘計算と、トコの死を拒絶する感情が衝突していた。
対照的に、カラカラと笑っているトコ。
自分の運命をもう決めてしまった人間特有の、どこか達観した明るさだった。
その笑い声は、戦場の喧噪の中で異様なほど澄んで聞こえる。
「何言うてもどうせ死ぬんやからあたしを使って、あいつを殺せ」
その言葉には、自分の命への執着の欠片もない。
ただ、センに『全てを託す』という一点だけが、彼女の意地と誇りを支えていた。
「ふざけ――」
センの喉から、怒り混じりの叫びが漏れかける。
彼女の勝手な自己犠牲を、肯定したくはなかった。
だが、その声は途中で遮られることになる。
と、センがキレて怒鳴ろうとしたところで、
闇川……いや、『ラスト』が、
黒い巨体の奥、中心に浮かぶ紅い光がぎょろりとこちらを向いた。
その瞬間、周囲の空気が一段階重くなる。
「使ったな……プライド……」
低く、ねっとりとした声が響く。
ニタリと笑みを浮かべて、
ラストは、長い舌で獲物の名前を味わうように、トコの異能の名を口にした。
「薬宮トコ……センエース以外では、お前だけが問題だった。お前の異能だけが、私に届き得た。だからずっと狙っていた。お前がプライドを使う瞬間を……」
その言葉は、ずっと前から仕込んでいた罠の種明かしのようだった。
ラストの視線が、貪欲な光を宿してトコへと注がれる。
「ラースを奪い取ってメモリが増えた今なら……問題なく奪える」




