157372話 締め。
157372話 締め。
みなとみらいの全景が、少し高い位置から一望できた。
下りの中で、センが口を開く。
「結局、今日一日、ガチで、デートっぽいことをしたわけだが……これは、なんだ? もしかして、誰かとの賭けに負けて、『センエースとデートしなければいけない』という罰ゲームを受けている感じか? よくも、勝手に、俺を罰ゲームの対象にしてくれたな! 許さんぞ、虫けらどもめ! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」
「マジで、あんた、普段の言動、ぜんぶキショいな。……戦場ではクールで頼りがいがあってカッコええのに……なんなん? ギャップ萌えでも演出しとるん?」
「俺は俺を騙らない。どんな時でも、俺は俺で在り続ける。それが俺の美学だって、昔のエロい人が言ってた」
「……あんた、今まで、普通の女子にはモテへんかったやろ。そこまで痛々しいと、流石に、一般の女子やと対応できへんと思う」
「地雷を踏んだな、薬宮トコ。その言葉は刃であり宣戦布告だぜ。外に出たら覚悟しろ。ここから、血で血を洗う死闘が始まる。まずは鼻をへし折る。そして、頭を掴んで地面にたたきつける。俺は、戦う相手が女子供であればあるほど萌える男だ」
センの物騒な宣言を受けて、トコは『はいはい』と雑に肩をすくめる。
ゴンドラはゆっくりと地上へ戻っていき、日常のざわめきが少しずつ近づいてくる。
観覧車を降り、夕方前の柔らかい光の中を歩いたのち、
――二人は転移でトコの部屋へ戻った。
さすがにホテルに行くようなマネはしない。
トコ的には、それでもいいと思っていたが、センエースが絶対に許さないだろうから。
先ほどまでの海風も、観覧車の揺れも、すべて遠い出来事のように感じられる。
散らかった部屋と、見慣れた家具。
日常へと帰ってきた感覚が、逆に今日の特別さを際立たせていた。
「今日は、マジで何がしたかったんだ?」
センが、壁にもたれながら問いかけてくる。
トコは、イタズラな笑顔で、
「慈善事業。非モテ男子にボランティア。良かったな、あたしとデートできて」
「ついに超えたな……最後のラインを……てめぇは終わった。見せてやろう。死よりも恐ろしい究極のパワーを――」
センが肩をそびやかせ、何かバカげた宣言を続けようとした、その最中。
トコが、一歩踏み込んで、センに抱き着く。
小柄な身体で、ぎゅっと強く抱きしめる。
胸元に額を押しつけ、そのまま動かない。
「……サバ折りとは、またオツな攻撃じゃねぇか。しかし、力が足りねぇよ。そんなんじゃ俺の背骨を折ることはできない」




