157371話 黄昏サラウンド。
157371話 黄昏サラウンド。
「セン、手ぇつないで」
唐突な一言に、センは一瞬だけ瞬きをする。
「質の高いジョークだぜ。合格だ。いいハンターになりなよ」
軽口でかわそうとした、その瞬間。
トコの右手が勢いよく伸びた。
トコ、むりやりセンの手を掴む。
指と指を絡める、恋人繋ぎ。
センの手のひらは、思ったよりも熱く、固かった。
マメだらけでごつごつしている。
死線を積み重ねてきているのが、素人でも理解できた。
「……何の真似だ?」
「夢やったんよ。手ぇつないでデートするん」
トコは、真正面からそう告げる。
視線は海の方へ向けたまま、顔だけ少し横を向けていた。
頬がじんわりと熱い。
「……安い夢だぜ。男の中の男ならもっと大志を抱け。軟弱者っ! どうせ夢を見るなら、『この世界の支配構造を変革する』ぐらいのことは叫んでほしいものだな。それこそが、狂気のマッドサイエンティストとしての最低限のテーブルマナーだって、バッチャが言ってた」
「……一個のセリフの中に、どんだけツッコミ所をまぶしてくんねん……ボケが渋滞事故おこして大惨事になっとるぞ」
トコは呆れながらも、手を離さない。
センもまた、振りほどこうとはしなかった。
海風が二人の髪を揺らし、繋いだ手の影が、足元の板張りに寄り添うように落ちていた。
そのまま時間を移して、二人は観覧車のゴンドラへと乗り込む。
狭い箱の中で、向かい合うように座るのではなく、トコは自然とセンの隣を選んだ。
ゴンドラがゆっくりと地面から離れ、足元の景色が少しずつ小さくなっていく。
車輪の軋む音と、微かな揺れが、狭い空間に伝わっていた。
「観覧車に関しては、転生する前から、ずっと、意味がわからんと思っていた。これ、面白いか?」
「景色はええやろ」
「景色を楽しむって概念が、あんまりないもんでね。なくもないが……秒で飽きる」
「それはみんなそうちゃう? 一瞬の感動を楽しむもんであって、長々と咀嚼するもんではない気がする」
トコはそう言いながら、窓の外へ視線を移した。
ガラス越しに、陽を反射する海とビルの輪郭が広がっている。
その横で、センは腕を組んだまま、何となく外を眺めていた。
トコは、その横顔を盗み見る。
戦場で見てきた、殺意と覚悟に満ちた顔ではない。
少し退屈そうで、少しだけ気まずそうな、どこにでもいる青年の顔。
ゴンドラの揺れが、二人の肩と肩を、時々かすかに触れ合わせた。
しばしの沈黙。
上昇を続けていたゴンドラが、てっぺんに差しかかり、ゆるやかな折り返しへ入っていく。




