157370話 非生産的な会話。
157370話 非生産的な会話。
淡々と食事をしているセンを見つめながら、
トコは、
「おいしい?」
「この世で最も愚かな質問の一つだな」
「死ぬほど普通の質問やと思うけど……」
「俺は、食べたものをうまいかどうか聞かれることが、あまり好きじゃない」
「はぁ? なんでなん?」
「なぜだろうな。関係ないからじゃないか? あらためて問われると答え難いものだな。動機の言語化か……余り好きじゃないしな。しかし案外……いや やはりというべきか。自分を掴むカギはそこにあるか……」
「……なにを言うとんの?」
「さっぱり分からない。俺は雰囲気で会話をやっている」
食事を終えた二人は、赤レンガ倉庫の方へ歩みを移す。
レンガ色の建物の前は、人で賑わっていた。
観光客がスマホを構え、あちこちで写真を撮っている。
「写真ってやつが、俺は大嫌いだ」
突然センが口を開いた。
トコがスマホを取り出し、自撮りの構図を考え始めた、そのタイミングで。
「なんでも嫌いなんやな。ダルい男やで。……ちなみに、なんで?」
「顔が悪いから。どうあがいてもキモくうつる。あとで確認した時、死にたくなる。お前みたいな美人には分からん感覚だろうな」
「別に、そこまで悪くないと思うで」
トコは本心からそう言った。
センの顔を、美形だとは思わない。
けれど、自分にとっては見慣れた、安心する顔。
「はい、でました。『そこまで悪くない』という評価。別に俺だってブサイクだと思っているわけじゃねぇよ。顔面偏差値でいえば48ぐらいだと思っている。つまり『決して良くないけど、悲観するレベルで悪くはない若干普通以下』というレベルってこと。そんなレベルで産まれたことを恨んでいる。イケメンに産まれたかった! そうすれば、今頃、美女に囲まれてハーレムをしていたはずなのに! いいなぁ、イケメンは! よりどりみどりで!」
「なにかにつけて、ちょっと悪ぶるんは、なんなん? もしかして、それがカッコええと思てる?」
「ビターで、ダーティで、シニカルな、味わい深い男なんだよ、俺は」
センは真顔で言ってのけた。
トコは、ため息と一緒に笑いを漏らす。
結局、写真は、トコがセンの横に立って一枚だけ撮った。
センは心底嫌そうな顔をしていたが、最後まで顔をそらすことはしなかった。
やがて、陽の高い空の下、大さん橋へと足を延ばす。
甲板のような木のデッキが広がり、海風が強く吹き抜けていく。
遠くには、青空を背景にした観覧車と高層ビル群。
トコは手すりに近づき、海を見下ろした。
「セン、手ぇつないで」




