157368話 デート。
157368話 デート。
「……おい、薬宮トコさんよぉ……なんだ、この異常に美化しまくった内容は。俺、最初にちゃんと言ったよな? 美化だけはするなよって。俺のイカれたところを描くのは好きにすればいいが、キモいことだけはするなよって」
マジギレしているセンの言葉は、部屋の空気を掴んで振り回すように鋭かった。
声が響くたび、砕けたガラス片がわずかに揺れ、壁にかかったカレンダーがカサリと音を立てる。
そんな、バチギレのセンを前に、トコは一度だけまばたきをした。
心臓は相変わらずうるさいが、表情は、驚くほど静かだった。
「センエース」
まっすぐに名前を呼ぶ。
その響きに、センの怒気がほんのわずかだけ緩む。
「あん?」
短く返事をしたセンの視線が、トコの全身を一瞬だけ見て、再び顔へと戻る。
「デートしよう」
トコは、わずかな逡巡も見せずに、そう言った。
緊張で喉が震えそうになるのを、力づくで押さえ込んだ声だった。
「……あ?」
★
みなとみらい駅のホームに、空気がねじ切られるような歪みが生じた。
誰にも気づかれない、ごく短い瞬間の揺らぎ――次元の亀裂の奥から、センとトコが並んで姿を現す。
昼下がりの光が、ガラス張りの構内にたっぷりと差し込んでいた。
観覧車と高層ビルのシルエットが、改札の向こうにかすんで見える。
「で? ここに何の用だ?」
センは一歩前に出ながら、周囲をざっと見渡し、隣のトコに視線だけを向けた。
いつものように余裕のある、退屈そうな声音。
ちなみに、センはペルソナXという変装用のアイテムを使っているので、誰も、彼が、センエースだとは気づいていない。
トコからのお願いで、『周囲にバレないよう』にしているのだ。
「だから、デートやって」
トコは当たり前のことを告げるみたいに言う。
気合いの入ったオシャレは人生最高の戦闘服。
いつもより少しだけ背筋を伸ばし、センの横に並んで立っていた。
センは、頭をかきながら、
「そういう比喩はもういいよ。この場におけるデートってのは、戦場で爆弾を投げるときに『こいつはクリスマスプレゼントだ』って叫ぶ時の小粋なアレみたいなもんだろ?」
「どんな人生歩んだら、そんなひねくれた考えになるねん」
「俺がどんな生き様を晒してきたか、知ってんだろ、多少は」
「多少な」
トコは呆れたように眉をひそめつつ、しかし口元にはうっすらと笑みを浮かべている。
センがこういう物言いをするのは、いつものことだと分かっているから。
「で? 何しにきた? どっかにカチコミにでも行くのか?」
「デートや言うとるやろ、ええ加減にせぇ! 殺すぞ!」




