157356話 もうだめだ、おしまいだ。
157356話 もうだめだ、おしまいだ。
なんで自分がこんなに苦しまないといけない。
こんな地獄、もうたくさんだ。
深く重たいマイナスの感情が止めどなく湧き上がり、
トコの胸を締めつけ、呼吸すら奪っていく。
気を抜けば、そのまま舌を噛んで意識を終わらせてしまいそうな――そんな精神の崖っぷちに立っていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ」
トコは必死に息を吸う。
肺が焼けるほど苦しくても、何度も何度も吸って、吐いて、また吸った。
震える肩を押さえつけるようにして、気持ちを必死に引き戻す。
そして、絞り出すように、
「くそ……ったれぇ……」
奥歯が折れそうなほど強く噛みしめられた。
涙で歪む視界の中、それでもトコは――自分に残された唯一の手段へと手を伸ばす。
――実行する。
――リライト。
★
――夕暮れ過ぎ。
トコはひたすら、パソコンの前で文章を紡いでいた。
薄暗い部屋に液晶の白光だけが浮かび上がり、カタカタと叩く指の音が途切れなく続いていた。
カメラが入っていない刑務所の中のセンエース物語は、
現実では見えない領域を描いているだけに、
情報に飢えている読者を大いに沸かせた。
画面の向こうで何万人もの眼が食い入るように読み進めている――そんな熱を、トコは確かに感じていた。
ヒッキエスの物語に続いて、チャーリーの章も投入……
そう息を整え、次の一文に手を伸ばそうとした瞬間、
トコの中に『未来の意識』がガツンとぶち込まれる。
脳が強制的に書き換えられるような衝撃が全身を突き抜けた。
「ぷはぁあ!」
蘇った時のユズみたいに、
トコは肺いっぱいに酸素を吸い込んだ。
胸が痛むほど深く、息を求める。
「はぁ……はぁ……」
何度も荒い呼吸を繰り返した果てに、
トコは、血走った目で、
「あんなもん、どうしようもないやないかぁああああ!! くそがぁああああああああああああ!」
絶叫が反響し、狭い部屋の空気がびりびりと震えた。
抑え込んでいた怒りと恐怖が一気に決壊し、毒の奔流みたいに全身から噴き出す。
トコは手近にあったパソコンをつかみ、そのまま床へ思いきりたたきつけた。
硬いものが砕ける鈍い音が鳴り、部品が四方へ飛び散る。
その勢いのまま窓ガラスに拳を叩きつける。
JKの拳でも余裕でひびが走った。
もう一発殴ると、ガラスが粉々に砕け散る。
『何かしらが壊れる音』だけが途切れることなく続き、
家具も壁も容赦なく傷だらけになっていく。
どれだけ部屋を破壊しようと、胸の奥を締めつけるような苦しさは、少しも和らがなかった。
八つ当たりで解決することなど何もない。
そんなことは分かっている。
けど、暴れずにはいられなかった。




