73654話 純粋閃光批判。
73654話 純粋閃光批判。
蛍光灯の光がふっとにじみ、壁の輪郭がぐにゃりと曲がり、その一点にだけ、色が吸い込まれていく。
トコは、わずかも驚かない。
椅子の背にもたれた姿勢のまま、肩を一つ上下させることさえしなかった。
まるで見慣れた現象を確認するように、淡々と振り返る。
そこに現れたのは――センエース。
トコが描く『転生文学センエース』の『えげつない変貌ぶり』に度肝を抜かれ、慌てて刑務所を抜け出し、ここまでやってきた。
次元の傷口を踏み越え、ゆっくりと姿を現す。
その男の眼差しは、余裕でガン切れしていた。
怒りを隠そうともせず、むしろ隠すという発想すら放棄したような目。
瞳孔の奥で、渦を巻く黒い光が、トコの全身を値踏みするように舐めていく。
「……おい、薬宮トコさんよぉ……なんだ、この異常に美化しまくった内容は。俺、最初にちゃんと言ったよな? 美化だけはするなよって。俺のイカれたところを描くのは好きにすればいいが、キモいことだけはするなよって」
マジギレしているセンの言葉は、部屋の空気を掴んで振り回すように鋭かった。
低い声が、壁紙の裏まで震わせる。
その一語一語に宿った圧が、机の上の参考書やペン立てをかすかに揺らし、パソコンの冷たい光を波立たせた。
トコは黙って、それを聞く。
睫毛の影に隠れた目だけが、じっとセンを見つめていた。
怒鳴られても、びくりとも肩を揺らさない。
代わりに、指先だけが、無意識にマウスのケーブルをいじっている。
センは続けて、怒気を強めたまま、
「反省しろ。二度と、俺を美化しないと魂の芯に誓え。今後は、できるだけ俺のことを悪く描くんだ。こんなイカれた練度の文章で、こんな美化しまくったら、世界中の全員が俺を完全に誤解するだろうが。俺は、性根が腐っていて、言動がバグっていて、人を虫ケラのように思っている修羅。ちゃんと、そう書け。真実を書くんだ。――おい、返事はどうしたぁ! 俺の言うことが聞けんのか、ナッパぁ!」
怒りを乗せたセンの言葉が部屋中に響き渡る。
トコは、タメ息をつきながら、天を仰いで、
「……うん……はい……」
と、力なく、生返事を口にする。
その声は、怒鳴り声とは対照的に、乾いていて、感情の色が薄かった。
あまりにも疲れ切っている彼女を見て、
センは、眉間にしわを寄せ、トコの顔をのぞき込むように身をかがめ、
「…………おい、どうした?」
怒鳴り散らしていたときの刺々しさが一瞬で消える。




