6081話 人類全体が共有している異能――怠惰。
6081話 人類全体が共有している異能――怠惰。
その数字は誇示ではなく、動くたびに地形と空気が応答する現象として証明されていた。
ほんのちょっと前まで、彼らの存在値は『10』だったのに、ほんのわずかな修行で、1京倍強くなってしまった。
訓練場に響いた悲鳴と怒号、血と汗の臭いが、今も喉の奥に残っているかのようだった。
平均存在値10京が数万単位で群れをなしている……という、えげつない怪物軍団。
それこそが、センエースが手塩に掛けて育てたヴァルハラ軍団。
本来であれば、倒せない相手など絶対にいない無敵極まりない地獄の軍団……なのだが、
「くぉおお!」
「な、なんだ、この女!」
「信じられん……あの女、存在値『500京』もあるぞ!」
「ふ、ふざけやがってぇぇ!」
叫びは互いに重なり、すぐに金属の軋みと破砕音に呑まれた。
大地が震え、光の粒子が爆ぜる。
甲冑の継ぎ目から迸る魔力が空気を焼き、それでもなお、彼らは立ち向かおうとする。
だが、すべては一瞬だった。
ラストが強すぎて、蹴散らされていた。
ヴァルハラ軍団は決して弱くない。
ただただ、ラストが強すぎる。
ラストは、ある程度、ヴァルハラ軍団を蹴散らしたところで、足を止めた。
彼女の瞳は冷たい光を宿し、吹き荒れる砂塵の中で微動だにしない。
倒れ伏す戦士たちの息づかいがかすかに聞こえるだけだった。
「……一人一人は大したことないゴミだけれど……この人数は魅力的」
その声音は退屈そうで、しかし底知れぬ支配欲が滲んでいた。
血と鉄の匂いを吸い込みながら、ラストはわずかに口角を上げる。
「……あなた達『人類』が持つ『スロース』の力……せっかくだから奪わせてもらう。誇るがいい。その価値があなた達にはある」
そう言うと、ラストはヴァルハラ軍団に両手を向けた。
掌の中心で黒い魔紋が回転を始め、周囲の光が吸い込まれていく。
空間が悲鳴を上げ、地平がわずかに歪んだ。
ラストの体に刻まれたロキの力――『グリード』が解き放たれる。
望むものすべてを手に入れることができるという、絶対の強奪能力。
それは風でも炎でもなく、ただの欲望そのものが形を持ったような力だった。
その力を使って、ラストは、
「うぁああああああああああ!」
「なんだ、なんだ!!」
「センエース、助け――」
あっさりと、ヴァルハラ軍団を丸ごと飲み込んでしまった。
無数の悲鳴が吸い込まれ、音すら残らない。
残されたのは、彼女の前に広がる沈黙と、
それを見つめていたセンエースだけ。




