6070話 赤ちゃん言葉はお手の物。
6070話 赤ちゃん言葉はお手の物。
自虐気味に笑うロキ。
「誰もがセンエースに怯えて、強制的にお行儀よく生きるだけの怠惰な世界。地獄ですら、ここよりはマシだろう」
その目は死を覚悟していた。
肩の力を抜いたまま、体幹だけが静かに戦いの位置へ落ち着く。
「センエース。いまから行くから……最後に、もう一度だけ共に踊ってくれ」
そう言いながら出撃しようとしたところで、背後から、
「――ああ、いいよ。こっちも準備が整ったんでね」
そんな声が聞こえて、ロキは、反射的に振り返りそうになった。
しかし、グっと我慢する。
そこらのチンピラみたいに、慌てて振り返るなんて無様な真似はしたくなかった。
指先の震えを刃の冷たさに押し込み、呼吸のリズムを一拍だけ遅らせる。
あえて、たっぷりと間をためてから、ゆっくりと、振り返って、
「やあ、センエース。ご足労いただき感謝するよ。おかげで交通費が浮いた。ありがたい限りだね」
軽口を叩きながらも、その足は獣のように沈む。
ナイフの刃がわずかに反射し、闇を裂くように光を返した。
「できれば、神殺し専用のハイテク武器や殺戮部隊を用意したかったのだけれど……君が、そのツテを端から皆殺しにしてしまったのでね……ありきたりなナイフや銃しか用意できなかったよ」
その声音には、かすかな苛立ちと興奮が混じっていた。
センは肩をすくめ、無造作に答える。
「そうか。それはすまなかった。反省の意味を込めて、土下座でもしようか?」
「ふふ……どこまでもふざけた男だ」
ロキの笑いが止むと同時に、地を蹴る音が響く。
空気が裂けるように、ナイフが閃いた。
狙いは喉。
殺意は一切のためらいを持たない。
だが、センはその刃を紙一重で避ける。
動きに無駄がない。
ゆるやかに振り返った彼の口から、挑発するような声が落ちた。
「流石、流石。おつよいでちゅねぇ」
その言葉に、ロキの頬がひくつく。
嘲りを受け入れたくない自尊心と、どうしようもなく湧き上がる怒りがせめぎ合う。
ナイフを握る手が震え、喉の奥から笑いにも似た息が漏れた。
「この俺が……赤ちゃん扱いか……」
笑うでも泣くでもない声。
だが次の瞬間、理性が吹き飛ぶ。
ロキは歯をむき出しにして吠えた。
「うぉおおおおおおおおおおおお!」
足が砕けるほどの踏み込み。
ナイフの光が幾重にも重なり、上下左右から嵐のように襲いかかる。
刃が空を裂き、金属が擦れる音が絶え間なく響く。
だが、センはそのすべてを見切っていた。




