6061話 悪を殺すワガママの剣。
6061話 悪を殺すワガママの剣。
スタジオのモニターには遅延の少ない映像が並び、
カメラの黒い瞳孔が彼の動きを逃さない。
配信を見ている世界の誰かがボソっとつぶやく。
『まさか、センエースの野郎……その10億本の剣で、全人類を一瞬で皆殺しにする、とか言わないだろうなぁ……』
その不安を抱いたのは彼だけじゃない。
一定数の、センエースに対して忌避的・懐疑的な者は、みな、一様に不安を覚える。
喉が乾き、画面越しの視線が固く結ばれる。
その不安は……ある意味で的中する。
センエースは、ゆっくりと続きを口にした。
「この刃は、『本気で救いを求めている声』に応じて亜空間から顕現する。仮に、暴漢に襲われている女が『助け』を求めた場合、亜空間から刃が出現して、暴漢を一瞬で行動不能にする」
その言葉に、全人類がザワつく。
『暴力を生業にしている悪人』は奥歯をかみしめながら眉をひそめ、
『他者からの悪意に怯えていた弱者』は心に希望を宿す。
胸の奥で小さな鼓動が跳ね、画面の向こうで拳がほどける。
「悪党が、利己のために利用する……などということはできない。『マフィアが敵対組織の幹部を殺すために、この剣を使う』などということはできない。『戦争を仕掛けておいて負けそうになったからといって、この刃で反撃する』などということも出来ない。この刃は、――『本気で救いを求めている者』の声にしか反応しない」
センエースが演説をしている今この瞬間にも、
暴漢に襲われている弱者は存在する。
強者からの悪意にさらされて、救いを求めている者は存在する。
拳が振り上がる一秒より速く、刃の影が落ちる。
――その全てが、今、この瞬間にも救われている。
他者に悪意を向けた者は、亜空間より出撃した『守護の刃』によって、足や腕を切り刻まれて、悪意の代償を支払う。
世界各地で悲鳴の声がまたたく。
サイレンよりも速い叫びが、電話よりも早く止む。
「このサービスは、10分ぐらい前から、既に運用を開始しており、すでに、何人も、この刃によって刻まれている。……今、この瞬間に、32万本ほどの刃が稼働しているな。悪人多すぎるだろ、この世界」
事実として、世界中で、膨大な刃が、ヒュンヒュンと飛び交い、『他者に悪意を向けた愚者』を切り刻んでいる。
カメラの背後で誰かが息を呑み、ペン先が机を小さく叩く。
センは、そこでニっと笑い、
「初月はお試しサービスで全員無料だが……この刃の恩恵を受けたければ、来月から、一人2万円払え」




