39話 次元を超えた視点。
39話 次元を超えた視点。
ロキの頭蓋がグラリと振られ、視線が泳ぐ。
膝がふらつき、床の油が危うくスリップを誘う。
「おらぁあああああああああ!」
トコはそのまま脚を回し、つま先で『落ちてきたロキの顔面』を弾き上げた。
靴底が頬骨に当たり、ロキの体が横へ滑る。
鉄の柱に肩が当たると、乾いた音が倉庫に響いた。
ロキは強く舌を噛みながら、己のこめかみに拳をたたきつけて自分を立て直す。
痛みを使って意識を一点に戻す荒業。
鍛え上げられた神経はすぐに反応。
呼吸が整い、足幅が安定する。
両手が上がり、殺気が倉庫の温度を一段下げた。
トコは追い足を止める。
ロキの殺気に体が勝手にブレーキをかける。
直感が、『ここで飛び込むな』と告げる。
「……前の時と反応速度が違う……さっきの動き……まるで、俺がどこを攻撃するか先に予測したみたいじゃないか」
ロキは口の端の血を袖で拭う。
袖に赤がじわりと広がる。
視線は冷たく、分析の色だけが濃い。
「実は、あたし、予知能力者なんや。怖いやろ? 逃げてええで」
「……ふむ。転生文学センエースの作者であることを考えれば、時空を超えた視点を持っている可能性もゼロではないが……」
その言葉が終わるよりも早く、ロキはトコの懐へと踏み込んでいく。
右の拳が、トコの顔面へ一直線。
……すさまじい速度だが、その一直線はフェイント。
途中で、右の拳を止めて、本命の『左拳』をトコの腹へと突き刺そうとした。
トコの目には、全てが見えていた。
予見されているフェイントは滑稽。
簡単に回避されたことで、ロキは、
「おっと……ふむ」
と嘆息してから、バックステップで距離をとり、
「……なるほど。面倒だな。……本当に『予知』なのか、それとも、『人知を超えた超反応』なのか、定かではないが、どっちにせよ鬱陶しいことに変わりはないな」
面倒くさそうに頭をかく。
「んー……流石に君との遊戯に価値を見出すことは出来ないな。……俺の敵はセンエースだけ。ここで時間をくうのもバカバカしい」
ロキは懐から薄い端末を取り出し、親指で画面を払う。
すると、天井の影が割れ、埋め込みの箱が連続して吐き出される。
銃身が降り、三脚が開き、無数のマシンガンが一斉にトコへ向きをそろえた。
「……『センエース用に用意した武器』を『メリケンサック一つしかつけていない女子高生』に使うのはどうかと思うが……まあ、時は金なりというからね」
油と鉄のにおいが濃くなる。
トコは、額に冷や汗が浮いた。




