38話 みえるぞ! あたしにも敵が見える!
38話 みえるぞ! あたしにも敵が見える!
「策を練った搦め手で、プロのあんたを出し抜けるとは思ってない。……あんたに、小娘の猿知恵が通じへんのは分かっとる。あたしは、ここに、意地を通しにきただけ。勝つ気はない」
「せめて、武器とかもってきていないのかい? なんだったら火器や刃物を貸そうか?」
「……意味ないからいらん。銃もナイフも、どうせ、全部避けられて終わりやろ?」
「まあ、君と俺の実力差を考えると、確かにそうなるだろうね」
「というわけで……正面から行かせてもらう! 玉砕上等!」
トコが床を蹴ると、空気がぴんと張った。
一直線の加速。
影が床に伸び、指先の血管が浮く。
勢いで押し切る、という言葉の響きがそのまま走りに乗っていた。
「まあ、それがお望みだというなら、別にいいよ。殴りつけて、拘束して……センエースの情報を吐かせる。シンプルな話さ」
ロキの肩がわずかに沈む。
殺意が折り畳まれて拳に収まる。
最小最短エネルギーのカウンターで迎え撃つ気満々。
そこで、トコは、
(――ドラフト、起動――)
自身の異能を発動させる。
トコの視界が、ざらりと変わった。
世界の輪郭が消え、漫画の下書きみたいな、線だけのラフ画になる。
倉庫の壁も、蛍光灯のチラつきも、ユズの白い肩先も、全てが鉛筆で粗くなぞられたように薄くなる。
白い細い軌跡が空中を滑り、ロキの拳の通り道を描いた。
ロキの拳がどこを通るかがハッキリと見える。
(……いけるっ。攻撃がどこを通るか分かれば流石に避けられる。プロのボクサーは、0.1秒の反射で敵の拳を避けることが可能。――対してあたしはド素人の女子高生やけど、3秒もあれば、流石に余裕)
トコは左手でポケットを探り、真鍮の輪をつまみ出す。
昔、護身用で試しに購入した鉄の武器。
メリケンサックが右手の指に噛む。
武器など持ってきていない……と言っていたが、あれは嘘だ。
ハッタリ、ブラフ、何でも使う。
全部を注がなければ、ロキは出し抜けない。
冷たい金属がトコの指腹に食い込み、力の伝達を約束する。
白い軌跡が頬をかすめる高さへ来る。
トコは上体を1センチだけ沈めた。
髪が一筋、空気に撫でられる。
拳が空を切った瞬間、上体の沈みが作用して血肉を守った。
「っ……!」
ロキの肩がわずかに流れる。
プロの微動。
そこに、トコは腰を入れて右脚で床を押した。
――瞬間、右のグーパンが跳ぶ。
標的はジョー(アゴの先)。
ガン、と鈍い衝撃が伝わる。
皮膚と骨の間で一瞬、軋むような音がして、拳はかすめて止まる。




