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第四十一話 王子の朝

石張りの浴室には湯気が充満し、視界は白くぼんやりしている。

浴槽に張られた温めの湯に肩まで浸かって、ルトヴィアスはようやく緊張が解れていくのを感じた。

一晩過ごしたアデラインの部屋から先程自室に戻り、ルトヴィアスはすぐ侍官に湯浴みの用意を頼んだ。自分の体から、アデラインの香油の匂いがしたからだ。同じ寝台に横になったせいで、香りが移ったのだろう。

その甘い匂いを、すぐに洗い流してしまいたかった。

不快だったからではない。

むしろ快いから問題なのだ。

自分の髪から、腕から、彼女の香油が薫るたびに、アデラインが傍にいるような錯覚がして、神経が昂る。とてもではないが落ち着けない。

ぽたぽたと髪から滴る雫が邪魔で、ルトヴィアスはそれを髪ごとかきあげた。

『…もう少し、いて?』

見上げてくるアデラインの目。

ルトヴィアスにむかって伸ばされた白い手。

「…っくそ!」

網膜に焼き付いたアデラインの姿から目を逸らすように、ルトヴィアスは頭まで湯の中に沈みこんだ。そのまま何拍か湯の中で過ごす。

だがやがて空気を求める肺の要求に逆らえなくなり、湯の上に勢いよく顔を出した。それと同時に、浴室の扉が嵐に飛ばされたと思うほどの勢いで外側から開けられる。

「殿下!!!」

オーリオが呼吸も荒く、浴室に飛び込んできた。ルトヴィアスの侍官の一人がオーリオを止めようと彼に追いすがってくる。

「オーリオ殿、殿下は湯浴みの最中です。お話は後に…」

「かまいません、アーブ」

「ですが殿下…」

アーブは困ったように歪める。

ルトヴィアスはこの柔和な初老の侍官が、実は苦手だ。皇国に行く前、ルトヴィアスが食事の作法を少し違えたり、衣装の袖をうっかり汚すだけで、彼はそれを祖父に言いつけた。そのせいか、幼い頃から仕えてくれている専従の侍官であるのに、アーブを前にすると嫌な気分になる。死んだはずの祖父の目を感じるような気がして。

ルトヴィアスの、そしてアデラインの食事に毒を盛っていたのは彼ではないかと疑ったこともあったが、オーリオが調べる限りでは証拠は何も出てこなかった。できれば傍に置きたくはないが、侍官として優秀なアーブを苦手だからというだけで自分の専従からはずすわけにもいかず、彼の存在はルトヴィアスにとって小さな刺だった。

「用があれば呼びます。下がっていて下さい、アーブ」

「…かしこまりました」

頭を下げて、アーブが浴室から出ていく。

だからと安堵することはできない。そこに強敵が仁王立ちしている。

ルトヴィアスはオーリオを睨み付けた。

「…今何時で、ここが何処かわかってるか?」

王族の居室の、しかも使用中の浴室に許可なくはいるなど、その場で手打ちにされてもおかしくない。というより、以前殺しかけた時をのぞいて、今ほどオーリオに死んで欲しいと切望したことはない。

けれど、それはオーリオが浴室に乱入してきたせいではなかった。これからオーリオに問い質されるだろうことを考えると、オーリオと刺し違えた方が幾分かましなのではないかと、ルトヴィアスには思えてしまう。

オーリオは、ルトヴィアスの浸かる浴槽の数歩手前で、腕を組んで喚いた。

「貴方こそ!今日が婚礼の9日前で自分が誰の部屋に泊まったかお分かりですか!?」

「――……」

ほらきた。予想した通りだ。

いつどこで、誰といるか、ルトヴィアスの身分は秘書官に秘密を持つことを許されない。つまり、オーリオは先程までルトヴィアスがアデラインの部屋にいたことを知っているのだ。アデラインの部屋までついてきた第二秘書官から連絡がいったのだろう。

行動をオーリオに把握されるのは、危機管理上仕方がないことだ。わかっている。わかってはいるが、今回だけは見て見ぬふりをして欲しかった。

――…まぁ、そんなことはあり得ないと思ってたがな…。

アデラインに関わることで、オーリオが黙っているはずがない。

「言っておきますが!私情で言っているんじゃありませんよ!?もし誰かに見られて余計な噂でもたったら…」 

寝不足の頭に、オーリオの怒鳴り声が響いてつらい。ルトヴィアスは浴槽の縁に首を預けた。

「…嫌な思いをするのはアデラインだな。ついでに王家の面子も傷がつく」

「その通りです!そこをわかっておられるならどうして…」

「…何もなかった」

「だいたい後9日ですよ!?たった9日が何故我慢出来ないんですか!」

「何もなかった」

「婚礼の式の祭壇前の絨毯が何故赤いか知って………」

オーリオの表情が止まる。その後、何度か瞬いて、怪訝そうに眉を寄せた。

「……何ですって?」

ルトヴィアスは手を額にあてた。もう自棄だ。


「な・に・も・な・か・っ・た!!」


一音一音をわざと区切って、ルトヴィアスは声を張り上げる。

「……――はあ!?」

オーリオの責めるような驚愕の声に、ルトヴィアスは死にたくなって湯の中に沈んだ。






結論から言えば、何もなかった。

同じ寝台では寝た。だが、ただそれだけだ。

『もう少し…いて?』

最初は、アデラインが何を言っているのかルトヴィアスには分からなかった。

彼女がそんなことを言うなど想像したこともなかったし、自分が言っている言葉の意味に、本人が気づいていないのではないかとも考えた。

またはルトヴィアスの願望による幻聴か、とも。

けれど幻聴ではなく、アデラインの真剣な目に、彼女も自らが何を言っているかわかっているのだと察し、ルトヴィアスの理性が焼き切れた。

奥の寝台に運ぶため、アデラインを抱き上げるまではそのつもりだった。

けれど、抱き上げたアデラインが、小さく震えていることに気がついたのだ。

まったく迷わなかったと言えば嘘になる。アデラインの怯えなど見なかったふりで抱いてしまえば…と、考えなくもなかった。

けれど決めたのだ。アデラインを大切にすると。アデラインが怖いのなら、少しでも嫌なのなら、それを無視することはできない。

そもそも、せめて婚礼までは待とうと自戒していたのだから、後10日くらいなんとかなる。……多分。

『怖いんだろう?』

焼き切れた理性を必死に結び直し尋ねたルトヴィアスに、アデラインは頷いた。

『…ごめんなさい』

消え入りそうなその謝罪が可哀想で、けれど可愛くてたまらない。

――…ああ、勘弁してくれ。

自分が短気だという自覚はあるが、理性までがこうも脆いとなると、我ながら情けなくて泣きたくなる。

多分、アデラインは何か不安に思うことがあるのだろうと、ルトヴィアスは思った。結婚を前にして女性が情緒不安定になる話はよく聞く。ただ結婚するだけでもそうなるのだから、王太子妃になるアデラインが精神的に不安定になるのは当たり前だし、仕方がないことだ。

真面目なアデラインのことだから、自分が王太子妃に相応しいのか、自分に務まるのか、そこら辺のことを考え込んだに違いない。

ルトヴィアスと結ばれることで、その不安を解消出来ると何故アデラインが考えたのかはルトヴィアスにはわからないが、とにかく彼女がルトヴィアスを引き止めた理由はそういうことだ。不安だったから。本当にルトヴィアスに傍に来て欲しかったわけではない。

アデラインを寝台に寝かせ、手を繋いで、ルトヴィアスは笑ってみせた。

『いいから、ほら寝ろ』

ほっとしたような表情のアデラインを見て、自分の判断は正しかったのだとルトヴィアスは確信した。

――…アデラインが眠ったら自室に帰ろう。

本気で、そう思っていた。

ところが、ルトヴィアスの試練はここからが本番だったのだ。

アデラインが、何を考えたのかとんでもないことを言い出したのである。

『ねぇ、一緒に寝る?』

『…………は?』

固まるルトヴィアスに、アデラインは笑って言った。

『大丈夫よ、寝台も広いし。私寝相はいいの』

無論、問題はそんなことではない。

確かに何もしないと意思表示をしたのはルトヴィアスだ。

だが、なら一緒に寝ようというのは、明らかにおかしくないだろうか。

良くとれば、アデラインがルトヴィアスをそれだけ信頼しているということだ。

悪くとれば、彼女がルトヴィアスを男として意識していないということかもしれない。

それとも、単純にアデラインが男の生態についてあまりに無知なのか。

混乱する頭のまま、ルトヴィアスは引っ張られるようにアデラインの寝台に横になり、そして生地獄を味わった。

ルトヴィアスの腕を枕に、安心しきった顔で眠るアデライン

白い敷布の上に波打つ髪。

薄く開いた唇。

その肢体が細くて、柔らかいことをルトヴィアスは知っている。

――…触りたい…。

その白い肩に、ルトヴィアスは何度か手を伸ばし、その度に引っ込めた。

――…耐えろ、俺。

アデラインの寝顔を眺めて、ルトヴィアスは一晩中溜め息を噛み殺した。一睡も出来なかったのは言うべくもない。

ただ1度だけ、アデラインの首筋を唇で吸った。

アデラインの部屋の前には、夜番の女官や侍官、それから騎士達が控えている。部屋から出てこないルトヴィアスに、中で何が起こっているのか当然察するだろう。

彼らに見栄をはる必要はまったくないのだが、もし何かの拍子にルトヴィアスとアデラインに何もなかったと彼らに知れたら、自分の沽券が傷つく気がした。

『焼いたパンを食わぬは騎士の恥』という諺もある。パンは比喩だ。本当にパンのことを言っているわけではない。焼いたパン、つまりすぐ食べられるように用意された食事を食べないのは、男らしくない。…つまり、そういう意味だ。

これだけつらい思いで耐えているのに、そんな不名誉な認識をされては割りがあわないではないか。

だが、アデラインの首筋の痕を見れば、少くとも女官達は、ルトヴィアスとアデラインがそういう関係を持ったのだと勘違いしてくれるはずだ。

――………くだらねえ……。

けれど、なけなしの矜持を守るくらいは許されてもいいはずだ。

『……ル…ト…』

『…………くっそ…』

寝言まじりに体にすり寄られ、ルトヴィアスは額に手をあて呻いた。






浴室から出て、ルトヴィアスは事の真相をかいつまんでオーリオに話した。

婚礼前にアデラインの部屋に泊まったとなれば、オーリオに説教を食らうはめになることは目に見えていたので、オーリオには打ち明けなければならないと元々考えてはいた。本当なら、オーリオにこそ黙っておきたかった。一晩中同じ寝台に横になって何も出来なかったなど、欲には勝ったが、勝負に負けたようなものだ。オーリオに憐れみの目でみつめられそうで、ルトヴィアスにはそれが耐え難い屈辱に思えた。

「……むしろ尊敬します」

予想通り、気の毒な捨て犬を見るようなオーリオの視線に苛つき、ルトヴィアスは横を向いた。

「…そんな尊敬いらん」

ルトヴィアスはすでに浴室から出て、薄い中衣と脚衣を身に付けている。髪から落ちる雫で、中衣の肩が湿り気をおびていたが、アデラインの髪ならともかく、自分の髪を拭くのは酷く億劫で、そのうち乾くだろうと放置をきめこんでいた。いつものことだ。

長椅子に体を投げ出すと、急激に睡魔が襲ってくる。本当に、本当に長い夜だった。

「仮眠をとられてはいかがです?」

オーリオが言うのに、ルトヴィアスは頷く。

「そうする…」

空は既に明るくなっているが、四半刻くらいは眠れるはずだ。少しでも寝ておかないと、寝不足の赤い目で朝食の席についてはアデラインが心配する。

「…オーリオ」

部屋から出ていこうとするオーリオを、ルトヴィアスは呼び止めた。

そういえば、この男もまさか徹夜したのだろうか。それを考えると申し訳ないような気分になった。ルトヴィアスがオーリオの立場なら発狂するかもしれない。

「はい?」

オーリオが振り向き、立ち止まる。

ルトヴィアスは迷った末に、結局謝罪を口にするのはやめた。それこそ逆の立場でオーリオに謝られたら、自分なら憤死する。

「殿下?」

「いや…ちょっと頼みたいことがある」

ルトヴィアスが長椅子に座り直すと、オーリオは扉の前からルトヴィアスの座る長椅子の横に戻って来た。座ったまま、ルトヴィアスはオーリオを見上げる。

「難しいことじゃない。ただ早めに頼む」

「いったい何です?」

「皇国の通訳官を調べて欲しい。アデラインより2歳年上の女らしい」

「通訳官?」

何故、とオーリオの目が問うた。

「その婦人が…どうかされましたか?」

「昨日の園遊会でアデラインと親しくなったそうだ」

「…お嬢様と?」

オーリオは眉をしかめた。おそらくオーリオはルトヴィアスと同じことを考えている。

同年代の同性に萎縮しがちなアデラインが、初対面の相手と打ち解けるなど不自然だ。

単純にうまがあう相手なのなら構わない。けれど、もし何かしらの目的があって王太子妃になるアデラインに近づいたとしたら…。

「名前は…しまった。聞きそびれたな」

「とりあえず名簿を確認します。ただ、今日の昼食会には間に合わないかもしれません。リルハーゼルに関わる急ぎの案件がありまして」

「昼食会は俺も出るから、何かあっても対処できる。俺の気にしすぎであればいいんだ。念のためだ。アデラインには言うなよ」

「かしこまりました」

オーリオが頭を下げて了承する。

「…ときに、殿下。あえて申し上げたいことがございます」

妙にかしこまったオーリオに、ルトヴィアスは首を傾げる。

「どうした?」

何か深刻な政治議題でもあっただろうか。

奇妙な緊張感の中、オーリオは至極真面目な顔で言い放った。

「『焼いたパンを食わぬは騎士の恥』という諺を知っていますか?」

「さっさと出ていけっ!!」

ルトヴィアスが力一杯投げつけた筒状の小さな枕は、見事オーリオの頭に命中した。







朝食を一緒にとるためにアデラインの部屋を訪れると、ちょうどミレーが部屋から出てきたところだった。

ルトヴィアスはすかさず飼い猫の毛並みを整える。

「おはよう、ミレー」

ルトヴィアスの微笑みに、ミレーも人が良さそうな笑顔を浮かべた。

「おはようございます。お嬢様がお待ちでございますよ」

ミレーはそう言ってお辞儀をし、ルトヴィアスを通すために脇に寄る。けれど何か思い出したように、ぱっと頭を上げた。

「あ、あの…僭越ではございますが…よろしいですか?」

「何です?」

ルトヴィアスが尋ねると、コホン、とミレーが軽く咳払いする。

「その…アデラインお嬢様を御寵愛頂けるのは、お嬢様の侍女として大変嬉しく、殿下には感謝しております。ですが一応ご婚礼もまだですし…その…人目に触れる場所は…お控え頂きたいと…」

少し赤くなって、ミレーは言い淀む。

ルトヴィアスは、ミレーが何を言わんとしているか察した。

ミレーは、アデラインの首筋の皮下出血の痕を見つけたに違いない。そして彼女はルトヴィアスの狙い通りに勘違いをしている。アデラインが婚礼前にルトヴィアスの妻になったのだと。

ルトヴィアスはそのことに密かに満足しながら、同時に己の情けなさに頭を抱えたくなった。

――…何してんだ、俺。

我知らず暗い顔で、ルトヴィアスはミレーに謝った。

「…すみません。気を付けます…」

「は、はい。い、いいえ、あの…。わかってくださればそれで…」

ルトヴィアスがそんなふうに謝るとは思わなかったのだろう。ミレーはたじたじだ。

「ルトヴィアス王子殿下のお越しでございます」

いつものように、アーブが扉を叩き、ルトヴィアスの訪問を告げる。すると、すぐにアデラインの声が返ってきた。

「どうぞ」

開かれた扉の向こうに、アデラインが立っていた。

「おはようございます、アデライン」

ルトヴィアスが挨拶すると、アデラインは目を伏せる。

「お、おはよう…ございます…」

耳まで赤くなって黒い目は潤んでいる。昨夜のことで照れているのだろうが横に寝ただけでこれなら、本当に夜を一緒にした翌朝はどうなるのか。楽しみなような、怖いような…。

――…そういえば…。

アデラインは逃げなかったな、とルトヴィアスは昨夜を振り返る。

以前は、ただ抱き締めただけで、ルトヴィアスから顔を背け会話もままならなかったものを、自分からルトヴィアスを寝台に引っ張りこむまでになった。随分な進歩だ。

――…『慣れた』ということか?

勝手な言い分だが、真っ赤になって必死に逃げるアデラインを見れなくなると思うと、何だか寂しい気もする。

ルトヴィアスの腕枕に、嬉しそうに頬をよせるアデラインを思い返す。

あんな愛しいものに触れないなんて、本当に地獄のような夜だった。

けれど悪くなかった、とも思う。

余計なことを一切考えず、アデラインのことだけで頭をいっぱいにすることが出来た。

世界に二人以外は存在しないような時間だった。

「…アデライン」

「は、はい」

少し緊張しているのか、アデラインの肩がびくついた。

その肩から、栗色の髪が流れ落ちる。

ルトヴィアスはアデラインにゆっくり近づくと、露になった白い首筋に、昨夜見栄で落とした口づけの痕を探した。

「……あ、あの…ルト?何してるの?」

「……うん」

「……うん、じゃ分からないわ」

「分からなくていい」

「ええ?」

耳の下の生え際にあったその痕は、うまく白粉で隠してある。おそらくミレーがしたのだろう。

アデラインからは見えない場所なので、本人は存在すら気付いていないようだ。

――…我ながら本当にくだらない…。

ルトヴィアスは自嘲しつつ、けれど奇妙な安堵感を得ていた。小さな内出血の痕は、卑小な己の見栄と自己満足の証に過ぎない。けれどアデラインは自分のものだと周囲に示せたことに、何とも言えない嬉しさも感じてしまう。

――…わからなくていい。

こんなみっともない所有欲と独占欲。アデラインには見られたくない。

そっと痕を指で辿ると、アデラインが飛び上がって後ろへ下がった。

赤い染料を頭からかぶったような顔色だ。林檎どころの話ではない。

「な、な、な、何!?」

目を吊り上げ、アデラインはルトヴィアスを睨み付けて叫んだ。

ルトヴィアスは耐えきれずに笑いだす。

――…何だ、全然『慣れて』ないじゃないか。

「…は…はははっ!」

「何よ!?」

そんな顔で怒っても可愛いだけだと、いつになったら彼女は気づくのだろう。

勿論、ルトヴィアスにはそれをアデラインに教えてやるつもりはない。

いつか、彼女がルトヴィアスの胸に飛び込んでくれる日が来るだろうか。

不安も――……立場も義務も飛び越えて。

彼女に飛び越えさせるだけの価値がある男に自分はなれるだろうか。

なりたいと思った。

アデラインの抱える不安も、まるごと受け止められるようになりたい。

けれど――――……。

本当なら自分には、そんな資格はないのだ。



2018.8.7 意味不明言語(笑)を訂正しました。ご指摘ありがとうございました。

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