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第十六話 ビターチョコレート&ドリンク ~南国風味~


 気が付けば海でした。



 真っ白な海岸がどこまでも続き、その向こうには無限に広がる青い海。

 爽やかに頬をくすぐる風は、潮を含むせいか少ししょっぱいですね。


 燦燦と照り付ける太陽が、足元の砂を熱く焦がしています。

 

 真っ直ぐに伸びた椰子の木の間には、大きな釣床ハンモックが張ってありました。

 寝ころぶと、白い雲たちがゆったりと頭上を行き来する様が目に映ります。

  

 じっとりと熱く、むわっとする空気。

 夏、真っ盛りです。


 私は鳥さんの背中に乗って、空を飛んでいた筈なのですが……。

 どうも記憶が曖昧ですね。

 風が心地よくて、ウトウトしたところまでは覚えているのですが。


 確か床にポテトチップスがいっぱい生えてたので、毟って食べてたのはおぼろげに覚えています。

 パリパリしてて、とても美味しかったですね。

  

 ただ毟るたびに床が揺れたので、その時にうっかり落ちたのかもしれません。

 

 それが、どうしてこんな事になっているのやら。

 まあ深く考えても、しょうがないですね。


 ところで小腹がすきました。 

 軽く何かつまみたいですね。


 おや、甘い匂いが……。

 これはチョコレートですか。


 どなたか気の利く人が、いらっしゃるようです。

 私、甘いモノには目が無いんですよ。


 どれどれ包装紐を、ぶちぶちっと解いてと。

 ぱくりと一口。

 うん、あんまぁぁぁあい。


 噛み締めるとぶにゅりと、甘い生チョコの部分が喉の奥へ流れ込んできます。 

 その甘さの奥にほろ苦さと、ピリピリッと痺れる刺激がありますね。


 照り返す太陽の熱が白い砂に弾かれて、木陰にいるのにお尻がじんわりと暑くなってきました。

 遠くに聞こえる波音を楽しみながら、チョコレートをつまむ午後。


 至福の時間が過ぎていきます。

 この甘すぎないビターなチョコは、いくらでも食べられますね。


 うん、少しばかり食べ過ぎたかな。

 ちょっと喉が渇いてきました。水分が欲しいところです。

 

 

 と思ったら、ストローが差し出されました。



 すみません、気を使って頂いて。

 どれ一息に。



 じゅるじゅりじゅろろろろろろろぉぉおお。



 うむ、なんて濃厚な甘みなんでしょう。

 舌が溶けなそうなほどの甘ったるさです。

 そして粘つくような喉越しのあとに、ピリピリピリリンと痺れがやってきました。

  


 灼熱の太陽の下で味わうビターなチョコレート&ドリンク――夢見心地な逸品です。



 ぷふぅ、少々飲み過ぎましたかな。

 この病み付きになる甘さがいけませんね。

 少し体重計に乗るのが躊躇われます。

 

 さて木陰の釣床ハンモックという絶好のお昼寝スポットです。

 少し夢うつつとなりますか。



   △▼△▼△



 ギール王子が大蜘蛛の巣から救出されたのは、翌日の昼近くであった。


 明け方に王子の寝室貝のベッドがもぬけの殻になっているのを従僕が発見し、大慌てで王宮内の一斉捜索が始まる。


 竜人族ドラゴニュートの宮殿は、大クラゲの体内に空気を溜めたものだ。

 内部は鯨を飲み込むほどに育つ大鬼貝の貝殻をクラゲの触手に取り付け、連結させた造りとなっている。

 

 クラゲ宮殿は普段は海中を浮遊しており、一般人の王宮への出入りは専用触手に付けられた貝殻舟で行われる。

 水中を自在に泳ぎ回れる竜人以外は簡単に侵入できないため、門番などの見張りを常置する習慣がない。


 加えて昨日は天龍の眷属である巨大な飛竜ワイバーンが、海龍の領域まで飛来する騒ぎがあった。

 王宮の兵士は総出となって海岸や海面を日没まで警備して回り、昨晩は疲れきって深く寝入ってしまっていた。

 そのせいで王宮に出入りする誰かの姿を確認できていた者は、一人として居ない有り様だった。


 王子の姿は衣装部屋貝や浴室貝にも見当たらず、近衛兵が血眼になりだしたところで、干潟で朝漁をしていた海女から知らせが入る。



 沼の方で、狼煙が上がっていると。



 水棲馬ケルピーにまたがった近衛兵たちは、即座に現場へ駆けつけた。

 そこで彼女たちが見たものは、煙を吐く大蜘蛛の残骸と焼け焦げた巣の傍らで、蜘蛛糸に絡まってぶら下がったままぐっすりと眠りこける美少年の姿だった。


 眠りから覚めた王子に怪我は一切なく、その奇跡に近衛兵たちは喜びの涙を流した。

 またギール王子の傍らにぶら下がっていた糸の塊は、松明の火に炙られたせいで下半分が燃え落ちており、中の人物の行方はようとして分からず終いであった。

 しかしギール王子はその人物を、剛腕の主と呼び親しみ生涯敬い続けた。


 王宮に戻ったギールは、今までの習い事や礼儀作法の修養に加え身体の鍛錬を行うようになった。

 さらに周囲の反対を押し切り、近衛兵に武芸の師事を頼み込む。

 

 素質があったのか、ギール王子の三叉槍術の腕は見る見る間に上達した。

 その腕前はいつしか三海を荒らし回っていた大海妖クラーケンを、単騎で退けるまでとなる。 


 後に東海一の美丈夫として名を馳せる彼は、一つの言葉を信条として生きたという。

 その言葉、



「自由とは腕力である。欲するならば、汝自身を鍛えよ!」


 

 は、後世の竜人族ドラゴニュートの男性たちの啓蒙解放運動、自由腕力主義のスローガンとされた。



竜人族ドラゴニュート

 全身を鱗に覆われヒレを持つ種族。だが風貌は人族よりも整っており、美しい歌声を持つ。

 男性は女性よりも二回りほど小柄。卵生であるが、子供を産み落とすのは男性である。

 女性が男性の育児嚢へ卵を産み付け、男性はその卵を体内で受精させて育てるため出産、育児は男性の仕事となっている。


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