旋律のブルー
エルデラは膝に置いた<ワイルド・スライム>にもたれ掛かり、ぷにぷにと揉みしだきながら俺を見る。
「この小僧どもは、もはや一端の上級魔物じゃ。そこまでは望まんが、いざとなれば流民どもを守れるくらいには育てられんかのう?」
「なるほど」
エルデラの依頼を受けて、俺は機能制御端末で四階層の魔物配置状況を見る。
え、いま<ブルー・スライム>って、七百十八体もいるの⁉︎ すげーな。しかもほぼ全数が四階層だ。
「なあ、ブラザー。<ブルー・スライム>……ってさ、どういう子たちなん?」
「なめると、すっぱい」
「え……なんでその情報が最初に来るん?」
「あと、しゅわしゅわ、してる」
なにそれ、サイダー的な感じ? ラムネっぽい色してるもんな。ちょっと興味でてきた。
ちなみに、ブラザーたち<ワイルド・スライム>は、草むらや森によくいる<グリーン・スライム>を【使役契約】して【魔物合成】で成長させ、“不確定進化”を達成した姿だ。
ちょっと草餅みたいな香りがして、前いっぺん口に入ったときはワイルドに甘苦かった。
「ぶるーすらいむ、みずのなか、ぎゅーんって、はやい」
「ほう」
「みず、びゅーって、だせる」
「ほうほう」
「だけ」
終わりかい。
“補足説明しますと、水上や水中での高速移動が得意なほか、水魔法に近い攻撃と防御の能力を持ちますが、乾燥には極端に弱いです”
「ありがとうマール」
エルデラは、彼らが湖の環境に向いてると言ったけど、逆だな。水辺以外の環境に適応できない。それならそれで、四階層の専属として湖の守り神になってもらおう。
俺はコンソールで<ブルー・スライム>を選択して、【合成】の用意を進める。<ワイルド・スライム>のような情報共有や並行化は行われていないようで、レベルもバラつきがあった。【鑑定】で見ると平均は3前後。冒険者で言えば新人のFランクってとこだ。
名前:<ブルー・スライム>
属性:水
レベル:3
HP:288
MP:329
攻撃力:38
守備力:17
素早さ:41
経験値:33
行動パターン:隠れる、逃げる、消える
ドロップアイテム:純水
ドロップ率:F
「エルデラ、いま<ブルー・スライム>は七百十八体いるらしいんだけど、数はどのくらい必要?」
「最低で百も居れば事足りると思うがの」
「了解」
それじゃ、体数は七分の一まで圧縮するか。七体を【合成】して、どこまでレベルアップできるかだ。まずは最初の一回目……
「うぉッ⁉︎」
モニター上で対象指定しながら【合成】していると、<ブルー・スライム>がいきなり光って勝手に次々とくっ付きながら【合成】が進行してゆく。なんか、どこぞの落ちものパズルみたいになっとる。
「ちょ、マール! なにこれ⁉︎ 連鎖が止まんなくなってないか⁉︎」
“【合成】に使用されるダンジョン魔力が、かなり潤沢なせいでしょう。一回での成長には上限がありますから問題ありません”
ホントに? 放っといたら巨大な青いスライムが一体だけになったりせんか⁉︎
“それよりも、<グリーン・スライム>から<ワイルド・スライム>に不確定進化したとき、メイさんが命名されたじゃないですか”
「そういや、そんなこともあったね。もしかして、ダンジョン・マスターの命名で成長が促進されたとか?」
“おそらく。もう一度、試してみていただけますか?”
「よし……でも何だろ、彼らの進化名」
暫定的な上司であるエルデラを見るが、呆れ顔で首を振られた。
「ウチに訊かれてもわからんぞ。そこはダンジョン・マスターの裁量ではないか?」
「う〜ん……」
連鎖的に進行していた【合成】は、速度も頻度も落ち着いてきたっぽい。<ブルー・スライム>たちが画面越しにこっちを見て揺れてるのが、何やら期待にワクワクしてるようにも感じられる。
「では、お前たち湖を守るスライムたちには、<クール・スライム>の称号を与えよう!」
俺がモニター越しに宣言すると、身体からゴッソリと魔力を吸われた感覚があった。数が多いせいか、<ワイルド・スライム>たちのときより強烈。画面に映し出されていた<ブルー・スライム>たちから、次々に激しい青白光が上がり、姿が変わる。いや見た目は、いくぶん大きくなって青味が強くなったくらいだけれども。
俺が【鑑定】で再度確認すると、名前は指定通りに変更されていた。
「成功したようじゃな」
名前:<クール・スライム>
属性:水
レベル:19
HP:1832
MP:1986
攻撃力:186
守備力:202
素早さ:191
経験値:67
行動:浸透、水斬、水弾、水壁、毒液、滑水、念話
ドロップアイテム:クールリキッド
ドロップ率:C
成長が、明らかにブラザーたちのときより早い。ダンジョン魔力が多いと、こうなるのか。他の魔物たちも早めに【合成】しておいた方が良いかもしれないな。
“ますたぁー、きこえるぅー?”
「お? なにこれ? 誰?」
““くぅーるううぅー♪””
““すらぁーいむううぅー♪””
念話が混線して、下手くそな輪唱みたいになっとる。
モニターを見ると、ぴょんぴょん跳ねながら身体の一部を振っているのが見えた。お互いの視覚を切り替えながら俺にアピール映像を送っているようなのだが、映像がクルンクルン回って見てると気持ち悪い。
「あー、君たち。近景の高速パンは3D酔いの原因になるので止めようね」
“はァーい♪”
「絶対わかってないと思うけど返事は良いな」
これからは基本的にエルデラの配下になって、流民の保護と湖ステージの防衛に努めるようにと伝えておいた。揃って元気の良い返事は、聞こえてきたのだが。
「なんか、あんまり聞いてない感あるな。名前ほど冷静じゃないというか……」
「だれ、れいせいー?」
「いや、あいつら。クールって、冷静とかカッコいいみたいな意味だったんだけど。違った?」
「ちがったー」
<ワイルド・スライム>の即答に、エルデラも苦笑しながら頷く。
「少なくとも<ブルー・スライム>には、冷静なところなどなかったのう」
「えー」
「あやつらは、鳥と一緒じゃ。人懐っこく善良ではあるが、ひとの話は聞かんし、行きたいところに行って、やりたいことをやるだけじゃ」
「いや待て。<クール・スライム>になったら、ちょっとは賢くなるかもしれんぞ。なあ、マール?」
“すみません、ひとも魔物もレベルが上がることで能力は向上しますが、性格は基本そのままかと……”
「ダメじゃん!」
「なに、楽しそうで良いではないか。鳥と同じで、勝手にやっとるその行動の多くは有用じゃ。……結果的に、じゃがの」
これから彼らの面倒を見ることになるエルデラは、苦笑しながら言った。
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