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ブリーズ・スルー・ザ・タスク

“お待たせしました”


 温泉でほっこりしていた俺の頭に、マールからの念話が届く。さっきまで興奮した犬みたいだったのに、いまはやけにキリッとした声になってる。

 横でぷかぷか浮いてたブラザーも受信したようで、“まーる、どしたの?”て顔でこちらを見る。


「待って……なくはないけど、マール大丈夫か?」

“はい。おかげさまで冷却完了、今後の放熱環境も用意いたしました。わたしは、完璧です”


 俺の周囲に、ぺぺぺと複数のモニターが開く。ここ、機能制御端末(コンソール)機能の設定もないのに?

 画面のひとつに映ったマールが、驚く俺を笑顔で見返す。


「え、なん……え?」


“わたしは、完璧です”


 いや、冷却に関してはそうかも知れんけれども。なんかキャラ変わってないか?

 いま彼女の居るのは、雪原に設置した第四作戦司令室(ヘッドクォーター)の一階。居住空間と違って密閉されていない、半地下の車庫みたいな空間だ。何も置かれてなかった十メートル(ニム)四方の場所に、浮遊状態で座っているマール。周囲には数十枚のモニターが同時展開されて、ハッカーの秘密基地みたいになってる。

 ここまで自信満々なマールを初めて見た。


“メイさんのお陰で、わたしは生まれ変わりました。サポートや実装のたび、処理負荷にビクビクする心配もありません”


 俺の前にあるモニターのひとつに、コアの処理負荷グラフが映し出されていた。CPU使用率に似たそれは、前に見たとき六割強から七割弱のところで揺れていたのだが。いまは二割以下で安定している。少し遡るとマールが何度かテストしたらしくグラフが跳ねたところがあったが、それも上がり幅は少なく、すぐに収束している。


「なんだこれ。ここまで違うもんなのか?」

“熱暴走を気にしなければ、並列処理や作業の分散、あるいは逆に作業の圧縮や高速処理が可能になります。それは結果的に、コアの負荷を軽くします”


 理屈は、わかる。実際ロースペックの機材だと、ネガティブ要素が更なるネガティブ要素を呼ぶ。目先のコストダウンなど問題にならないほど無駄なコストが掛かる。I T関連の仕事で必要な機材をケチるのは自殺行為だと、よく言われる話だ。


“それと、以前メイさんに言われた【連結】も実行しました。ケイアン・ダンジョンのコアにマナを供給し、再生を促すと同時に緊急性のない処理を肩代わりさせています”

「でかした。それでこの負荷軽減か」

“はい。ダンジョンの実力というのは、攻略を受けてからの対処能力ではありません。事前に必要な要素を、どれだけ処理済みにしておけるかなのです”


 わかってはいても時間とスペックが足りずに悔し涙を流すのが常でしたが、とマールは幸せそうに笑う。


“いまなら、万全の備えができます。存分にサポートができます”

「まーる、すっごーい……♪」

“いえいえ、わたしなんて、そんな……!”


 ブラザーから手放しの称賛を受けて、マールは激しく照れる。ほっぺた押さえながら身悶えるから、なんかもう色んなもんがフレームいっぱいにすんごいブルンブルンしてますね。

 これ、真面目な話してるときも気が散ってしょうがないパターンだ。


「ちなみに……その格好は、どうにもならんの?」

“はい。ですが、検証により冷却効率は証明されました。処理負荷が上がっても、風を通せば問題ありません”

「いや、そういうことではなくて……」


 彼女がモニターを操作すると、横の窓か通気口が開いたらしく室内に風が巻き始める。森のなかにある温泉と違って、作戦司令室の建物があるのは遮るものもない平地だ。室内は軽めの台風レポートみたいになってるけど、飛ばされて困るような物はないので問題は……ないと言えば、ない。

 吹雪のなかドヤ顔で浮遊しながら四方のコンソール操作する紐ビキニの爆乳秘書って、要素が多過ぎて困惑する。


“どうですかーッ⁉︎”


「……どうなんだろ」


 俺は溜め息を吐いて、接続を切った。

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― 新着の感想 ―
[一言] ……ベンチマークの世界大会とかは、液体窒素を温度見ながら注いだりするんだっけ……(白目)
[気になる点] …………へんたゲフンゲフン……えーと、痴女ですね♪
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