フリーズんヒート
俺は転移魔法陣で最深部コア前に戻った。
ダンジョン・スキル【連結】による転移機能だ。廃墟と湖の第二・第三作戦司令室にも座標登録したので、いつでも自由に行き来ができるようになった。途中の階層でも座標を登録してはおいたが、ランドマークがないので使い道はあまりなさそう。
「お帰りなさいメイさん。上の様子は、どうでした?」
「課題がいっぱい、だけど皆が優秀だから喫緊の問題はないかな」
本当は問題もいっぱいなんだけど、なんとかなりそう。正確には、なんとかしてくれそう。それがイカンという自覚はあるので少しずつ改善してゆく所存である。
「戻られたのは、何か用事があるとかではなく?」
「いや。本格的な【迷宮構築】を行うなら、コア直結の機能制御端末にしようかと思って」
ふたつの予備作戦指令室も快適ではあったのだけれども。コンソールの表示画面を増やしたり複数の処理を並行して行うと反応遅延が出る。最初は気にしてなかったけど、何度か嫌な感じの応答なし状態もあった。古いPCでよくある、無理させるとコアが深刻なエラー状態になりそうな反応だ。
実際に青くはならんだろうが、ダンジョン・コアも無理させると機能停止する。再起動するかどうかは運次第で、その間ダンジョンは罠も構造物も停止した“ただの箱”になると聞いた。
「コアの処理負荷は表示できるか?」
「はい」
マールに言うと、いままで見たことがなかったデータがグラフ状に表示される。パソコンのCPU使用率グラフに似ていなくもない。そんなことより、問題は負荷が思っていた以上に大きいこと。
「待て待て……いま七階層しかない状態でこれか?」
「……すみません、ご期待に応えられず」
「マールのせいじゃないだろ。コアの性能が仕様と見合ってないだけだ」
ということはつまりコアの問題です、とかコア・アバターは言ってるけど。必要な性能を確保しないで無茶な仕事させて落ちたり固まったりすんのはパソコンが悪いんじゃないだろよ。
ダンジョンの等級が上がると、コアの性能も上がるって聞いたんだけどな。
確かに上がってはいるようだが、“言われてみれば”程度の微増。クラスが上がると扱う階層や配置物などのデータが激増するので焼け石に水、どころか負荷が遥かに上回る。性能は実質、低下してるようなものだ。
「もっとコアの処理能力を上げる方法はないのかな。冷却を改善するんでもいいや」
理想を言えばひとつのコアの性能を無理に上げるより、複数並行処理化した方が安定するんだろうけど……って、マールさん。なんでモジモジしてるの?
「……ダンジョン報酬点を使えば、……ある程度は」
「できるの⁉︎ それを早く言ってくれ」
コンソールを操作して【調達】を選択する。ダンジョン報酬点を消費して物資や環境を入手できる機能だが、【迷宮構築】が進んでいない現状ではそれほど詳細には見ていなかった。
調べてみるが、リストにそれらしいものはない。“物資”“環境”“配置物”“配置生物”“特殊機能”“特殊スキル”……などのタブに分かれているが、膨大すぎて検索しきれない。
「どこ?」
「……いえ、あの」
さっきから気になっているんだが、なぜモジモジしてる。顔も赤いし汗もすごいし、目も泳いでるしこっち見ないし。
コアの性能を上げることにアバターが羞恥心を持つ理由がわからない。ぶっちゃけセクハラでもしてるみたいな気分になるからやめて欲しい。
「ほ、本当に、コアの機能を上げるのですか」
「このダンジョンが生き残るためには、絶対に必要だろ。極論を言えば、魔物や階層なんかより遥かに優先される最重要事項だ。マールが何を躊躇してるのか知らないけど、他の選択肢はない」
明白な事実をハッキリ告げると、彼女は覚悟を決めたように顔を上げた。
「わかりました。コアに関する事項は、こちらに」
マールが指したのは“処理”というタブ。
……それ、項目名が不親切すぎんか。そんな漠然とした名称で端の方にちっこく置かれてたら最後まで気付かんわ。
まあいい。これでコア性能ガン上げしちゃる。なんなら四姉妹マールとかに……
「……って、なにこれ」
ムッチャ高価え。これBクラスだった頃なら何も買えなかったわ。
そりゃそうだよね、ダンジョンの根幹に関わる機能だし。むしろ安かったら誰でも爆上げするから過去にコアの機能停止問題なんて起きなかっただろうし。そもそも高機能コアが安いものなら最初から最低限性能で使用者にムチャ振りもしなかったんだろうしな。
それにしても……処理速度一割増で二十万ポイント、三割増で五十万ポイント、五割増で七十万ポイントか。高価なのもあるが、性能の向上幅もイマイチ渋いな。この世界では技術的上限があるのかも知れん。
「ですから、あの。お伝え、しにくくて」
「なんでマールが、そんなこと気にするんだ。これはマール個人の浪費なんかじゃない。コアの性能が上がれば、みんなが幸せになれる。そこに掛けるコストは、惜しむべきじゃない」
俺は、ここまで溜め込んでた九十万チョイのダンジョン報酬点を迷わず全部突っ込む。処理性能に上限の七十万、残る二十万で冷却性能を上げる。すっからかんだけど、俺たちの戦いはこれからだ。
「れッ⁉︎ あああメイさん、ちょ、ちょっと待ってください!」
「ダメ。これだけは譲れない」
「違うんです、そうじゃなく……」
なにやら言うてるマールの苦情は後で聞くことにして、購入決定を実行。爆発でも起きたかのような閃光に包まれて、我らがコア・アバターは超性能を手に入れ……
「にゃああぁーッ⁉︎」
……なぜか、水着姿になっていた。
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