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戦中の戦後

 エルマールが狙われるか。そらそうだろう。ポッと出の新規ダンジョン爵が生き残っただけでも珍しいのだ。ひと月も経たずにBクラスに上がったとなれば、そのダンジョンは明白な脅威だ。

 現在王都に侵攻中のエイダリアが王城攻略を果たすにしろ志半ばで斃れるにしろ、Aクラスダンジョンとしての戦力を維持することはない。上空から見ていただけでも、エイダリアは魔力的コストの高そうな魔物を数多く喪っている。

 おそらく、今後はBクラスが王国ダンジョンの最上位になる。俺も、そこまでは理解する。


「エルマールより上に、古株が三つ残ってる。狙われるとしたら、そちらが先じゃないのか?」

「いや。彼らは、貴殿らと違うのだ。良くも悪くも、だが」


 申し訳なさそうな顔はしてるが、そこが本題の導入部な印象があった。

 この男が伝えたいのはエルマールが狙われることではなく、狙われた結果として起こること。それを前提にした交渉もしくは脅迫だ。法務宮の回し者で交渉役の近衛兵なんて、要素多すぎ。信用しろって方が無理あんだろ。

 なんか鬱陶しくなってきたな。追い返そうかな。それか、ラウネのスケキヨ畑に仲間入りしてもらおうかな。

 俺の素直な気持ちが顔に出たのか、カルミアの表情がビクッと強張った。


「め、メイヘム殿。貴殿は四つの辺境ダンジョンが生き延びた理由を知っているか?」

「国境線の、砦代わりだからだとは聞いた。西端のエイダリア以外と接触はないので、実情までは知らない」


 マールは知っているのかも知れんが、カルミアは彼女には訊かず話し始めた。


「南端のクーラック・ダンジョンは王国最大の穀倉地帯、東端ルクソファン・ダンジョンは王国最大の金鉱山、北端ドルムナン・ダンジョンは王国最大の水源だ。西端エイダリア・ダンジョンからは岩塩が出る」


 なんだよ汚ねえな。既存ダンジョンばっか優遇しやがって。そんな俺の感情を察して、マールが説明を加えた。


「ダンジョンが発展を遂げるなかで、各マスターが生み出したものです」


 なるほど、最初から付加価値付きだったのではなく、ダンジョン爵が自分たちで開発した結果か。

 それなら納得だな。


「ちなみに、その産出資源は、ダンジョン爵の所有権が認められるのか? それとも、徴税とは別に拠出させられる?」

「税の物納が認められる」


 なるほど、双方がギリギリ受け入れられる線か。探り合いながらでも関係を維持してきた既存ダンジョン爵は、信用度としても利用価値としても、エルマール(ウチ)よりもずっと上なわけだ。

 次に狙われるのはエルマール。そこまではわかった。


「それで?」


 そろそろ本題に入ってもらおう。俺もガールズも暇じゃないし、こんな奴の相手をしていたくもない。


「表向きの来訪目的は、王宮からの救援要請を届けることだ」

「勅命だっけ。もう受け取ったよ」

「わかっている。どのみち王城は落ちる。いまさら行っても出来ることはない。本命は、法務宮からの依頼だ」

「王城がダメなら、法務宮(そっち)も似たような末路(もん)だろ」

「その通りだ」


 挑発したつもりが、素直に頷かれて拍子抜けする。動じてないところを見ると、滅びる覚悟はあるのか。


「我らに代わり、王都の……王国の未来を、受け入れてもらえないだろうか」

「……何だそりゃ? 避難民の保護か?」


 条件次第では乗ってやってもいいが、こっちにも出来ることと出来ないことがある。正確には、やりたいことと、やりたくないことが。王都の人間など助ける価値があるとは思ってないし、そんな義理もない。

 俺がそう言って笑うと、カルミアは少し表情を引き締めた。


「違う。外敵による占領と略奪が行われる前に、第二王女と新王朝をエルマール・ダンジョンに移管したい」

「は? なに言ってんの、お前?」

「法務宮は全面支援を約束しよう。古い王都は滅びるが、代わりに、ここが新しい王都になる」

「ちょ、待て。勝手に話を進めんな」

「必要な書類は揃っている。承認も同意も取り付けてある。魔導玉璽(ぎょくじ)も、王家の宝具も預かっている」

「おい、聞けよ」

「我々には、貴殿を王配とする用意もある」


 おうはい。って、なんだ。いや待て。あれか。女王の旦那?


「……はああァッ⁉︎」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔導玉璽と宝具が重要そうだなぁ
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