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蹂躙する者たち

「メイさん」


 ダンジョン内の環境整備を行なっていた俺は、駆けてきたマールの表情から緊急事態なのを理解する。


「“魔物暴流(スタンピード)”と思われる魔物の襲撃で、カイストンが陥落しました」


 それが起きることは予想していたが、聞き慣れない地名に首を傾げる。


「カイストン……って、どこ? そんなダンジョンあったっけ?」

「ダンジョンじゃないです。西領の領府です」


 王都のある中央領は王家直轄地だが、東西南北の四領は大貴族家が統治する大領地だそうな。領府というのは、その領地の役所や領主館がある街。元いた世界の県庁所在地みたいなものか。


「そこを陥落させたのは、上位ダンジョンの魔物?」

「はい。<厖大虚人(ヒュージゴーレム)>が城壁を壊して、後は入り込んだ<泥濘亜狼(マイアコヨーテ)>と<群居羽蟻(ハイブアント)>による鏖殺(みなごろし)です。


 <ゴーレム>はエイダリアの鉱山跡に多く、モルガは王国最大の<ハイブアント>生息地だ。目立った特徴がないマリアーナの痕跡は残っていないが、瓦礫と化したカイストンが炎上しているのはマリアーナ・ダンジョンで目撃報告のあった<炎熱妖狐(フレイム・フォックス)>によるものと思われる。


「上位ダンジョンではスタンピードは起きないんじゃなかったのか?」

「はい」


 スタンピードというのは、何らかの原因によりダンジョン内外の魔力濃度が逆転、その結果として魔物の群れが外に溢れ出す現象だと聞いた。内部の魔力濃度が高値安定している高位ダンジョンでは、最初のトリガーになる濃度反転が起きないはずだとも。


「これを」


 マールは機能制御端末(コンソール)の画面を開いて各ダンジョンの数値変動を示す。前に見たのは、ダンジョン周辺の“外在魔素(マナ)”が大きく跳ねて、その後にダンジョン内の魔物の“体内魔素(オド)”が急速に高まっている様子。どれも波形は似ているが、上位の三ダンジョンだけが違っていた。どの数値も継続的に落ちていたものが、さらにガクッと極端に落ちている。


「えーっと……これは、意図的に数値を下げたのか」

「はい。過去の数値をさかのぼって調べたところ、前にも何度か、ダンジョン生命力(DHP)ダンジョン魔力(DMP)を融通し合ってました。その手法を攻撃に使うことを思いついたんでしょう」

「人為的に、スタンピードを起こす?」

「はい。エイダリアとマリアーナの魔力をモルガに集中させ、魔物が移動を開始したところで今度はマリアーナに流し込んでいます」


 いっぺん魔物の群れに指向性を持たせたら、マーカーとなっていた巨大な魔力が消えても勢いは止まらない。


 マリアーナの先にあるのが、カイストン。大規模な開発のために魔道具が揃えられ、技術職の魔導師も多く集まっていた。上位ダンジョンほどではないが“外在魔素(マナ)”と“体内魔素(オド)”の高い環境になっていたわけだ。魔物を誘導する側からすると、お誂え向きのターゲットだ。

 西領府は魔物の群れに襲われ、攻め滅ぼされた。単なる、動線として。


「連中がカイストンとやらを潰した目的はなんだ?」

「わかりません。報復でしょうか」

「え? 感情的なものなの? 利益とか目的があるわけじゃなく?」


 ダンジョン爵として長く生き残り、クラスアップを達成した連中だろうに。昨日今日この世界に来たばかりの俺たちとは違って、それなりの立ち位置や行動指針や処世術があるんじゃないかと思ってた。


「感情的な部分を除けば、王都への補給路の遮断。あとはエルマールに向かわせるための布石です」


 言われてマップを見ると、カイストンは西部の上位ダンジョンとエルマールを繋ぐ位置にあった。“体内魔素(オド)”の光点を見る限り、その目論見は成功したようだ。魔物の群れは、エルマールに向かって移動してきている。

 魔物に殺された西領府の住人たちも、自分たちはダンジョン爵同士のマウンティングのために死んだのだと知ったらやり切れんだろうな。


 ピコンと、メッセージを受信した風な表示が入る。


「メイさん、エイダリアのダンジョン・マスターから警告です」

「なんて?」

「“次はお前だ”」


 どうにも趣味が悪いな。頭も悪そうだ。恨みを買う覚えもないが、仲良くなれる気もしない。

 しょせん敵対するのは必然か。


「構うな。俺たちは、やるべきことをやる」

「それと、これが安全地帯(セーフゾーン)の町まで届けられました。“エルマールのダンジョン爵”宛です」


 差し出してきたのは、封蝋で留められた巻物風な手紙。開いてみたが、読めないのでマールに見せる。


「……王宮からの勅命ですね」

「え? この状況で? どの面下げて?」


 マールに言ってもしょうがないのは、わかってる。

 王宮が何の用なのか訊くと、彼女は指先でこめかみを押さえながら小さく溜め息を吐いた。


「上位ダンジョンの策略と侵攻を止めろと」

「無茶言うな」


 止められるわけねえだろ。つうか仮に止められたところで、やるわけねえだろ。アホか。てめえらが俺たちにやってきたことを思い出せっつうの。


“まーすたー♪”


 マップ上の迫る光点を眺めているうちに、ボーイズんガールズの声が頭のなかで響いた。


「どうだ?」

“だいじょぶー!”

“こっちも、用意できたわよ?”


 迎え撃つ準備はできた。あとは迷いを捨てるだけだ。


「よーし。それじゃ、みんな聞いてくれ。ここから、一部の方針を変える」


 俺は、声を聞いているみんなに、ハッキリと宣言する。


「エルマールに踏み込んできた敵は、すべて殺す」

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[気になる点] そっちもあっちもその気なら、こっちだってその気だぁ!! おーるぅ、きぃいるぅ!!
[良い点] なんかどいつもこいつも救い難いw
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