リプレイスとリグレット
昨日から多くの方に見ていただいてるみたいで、ありがとうございます。
楽しんでもらえるよう、がんばります。
「これ……みんな冒険者か? この松明、パッと見で五、六十はいるぞ?」
「馬車も混じってます。全員が灯火持ちでもないので、光の数で五十前後、となると……三、四倍はいるかと」
二百近い奴らが向かってきている? エルマールに? こんな時間なのに? 時計ないけど、もう深夜だろ?
「兵士は」
「いても少数です。軍は、こんなに雑然とした隊列は組みません」
そんなもんか。俺はコアの球面を叩面して拡大してみる。何人か確認してみたが、たしかに服装も装備も冒険者風だ。見えているだけで、ほとんどは歩きで、馬車は四台だけ。それぞれ七、八人が乗っているようだ。
「どうでもいいけど、<ハーピー>の視力スゲーな」
「はい。身体機能は鳥に近いですから」
なるほど。暗闇のなかでもクリアでカラフルなのは、鳥類に近い<ハーピー>の視力が高いせいか。鳥類は人間には見えない紫外線域の光波長や磁界まで感受可能とか聞いたことがあった。いくつかの身体から妙な青白い色味の反射が見えてるのがそれかも。
「マール、このモヤみたいの何かわかるか」
「魔力ですね。おそらく魔導師か、魔法適性を持った冒険者です」
その数、ざっと十五前後。割合にして、十人から十五人にひとりくらいか。青白いモヤの濃度にも差があるから能力もバラバラなんだろう。なんにしろ、こちらにとって脅威であることには変わりない。
俺は機能制御端末を操作して、いまできる緊急対策を行う。
ケイアン・ダンジョンを負かしたことで、彼らのコアから奪ったダンジョン生命力、ダンジョン魔力、ダンジョン報酬点を手に入れている。いまなら構築リソースも配置用の魔物も潤沢だし、ダンジョン・スキルも強化されている。迎え撃つのに問題なのは時間だけだ。
「<ハーピー>! 先頭の到着までどのくらい掛かる?」
“もうすぐー♪”
彼女らは、なんでか嬉しそうに囀るような声で伝えてくる。
冒険者の先頭集団は、もうエルマールの山に入り込んでいるらしい。しかも潰された入り口を迂回して、裏口のある北西側に向かっているとか。
「魔導師ならば、ある程度の“外在魔素”の流れを感知することができます。時間と手間は掛かりますが、出入り口の探知は不可能じゃありません」
何人かは後から作った細くて入れない開口部に向けて移動中だが、どのみちバレるのは時間の問題だろう。俺はコンソールをタップして階層の変更修正、魔物と仕掛け罠の配置を超高速で行なってゆく。完成品納期前の過集中、“ゾーンに入った”感じで周囲の物音が消える。やってやる。何があっても。どんなことをしてでも。
――訪れる者の、度肝を抜いてやる。
“ますたー、にんげん、まいご? なんかー、うろうろしてるよー?”
「そうだ。これから、そいつらを東側に向かわせる」
“ひがしー? ……ああ、わかったー”
<ハーピー>たちは旋回しながらこちらに視覚映像を送ってくる。入れない小穴を放棄して動き出した冒険者たちが、いま開いたばかりの開口部に移動し始めていた。
北西部で裏口から引き返してきた者たちも、わずかな時間差を置いて東側に歩き始めているようだ。
「メイさん、何をされたんですか」
「言っただろ。三階層の安全地帯の町を東方向に伸ばした」
「まさか本当に、ダンジョン入り口を街道と繋ぐつもりですか⁉︎」
「もう繋いだ。裏口は塞ぐ」
「まだ開いてますが」
「物理的にはな」
構造的には、通行不能になってる。ダンジョン内に入ったところで周囲は湖、深部に向かう通路はない。人間の足では通れないし、泳いでは渡れない。通過できるのは、俺と魔物たちだけだ。
“ますたー♪”
「おう<ハーピー>、どうなった」
“よにん、はいったー”
「よし」
“そのあと、ななにん、はしってくるよ?”
「問題ない。そのまま上空待機、怪我しないように距離を取ってな」
“だいじょぶー♪”
コアに映った<ハーピー>からの視覚に目をやる。長い列が乱れて、動きが早くなっている。先頭集団が入り口を発見したことが伝わったのか。後ろの方は、たぶん情報ではなく前が急ぎ出したのに反応しているんだろう。
危険や利益への反応は、小魚の群れみたいだな。
「なにか用意は必要ですか?」
「いや、四階層まで構造調整が済んだ。五階層目も組んだが……まあ、やっつけだな」
いまは足止めの役に立てば良い。時間を稼げれば、その間に下の階層を組める。足りなければ階層を増やすことも面積を広げることもできる。
「とはいえ、ちょっとなあ……」
短時間で判断して構築して作動チェックもそこそこに環境固定、という状況だったため、あまり納得していない部分が多くて悩む。
考えてもしょうがない。いまさら修正している時間はない。コストとしても許容できない。
「どうされました、メイさん。何か問題でも?」
「いや、遊びの場の繋がりが不自然でさあ……」
「え?」
「最初はね、一階層目に暗い通路で緊張させて、二階層目の岩場の迷路で走り回らせて、その先の吹き抜けで意識を散らしてから、三階層目の大草原で本格攻略をスタートさせる……って構成だったんだ。つかみの構成としてはギリありだったんだけど、いまだと最初が三階層目、それもセーフゾーンの町スタートだろ? 緩急のリズムとしておかしい」
「……はあ」
「危険と緊張が続いてきたとこにセーフゾーンだと、良い感じに気が緩むんだよ。財布の紐も緩む。それが入っていきなりセーフゾーンって、先に進むモチベーションを持たせられるのかな、と思って」
「???」
うん。君には、わからんと思う。レベルデザインとかやってる人間の職業病だから。わかってる、この世界のリアルとゲームとは分けて考えるようにはしてるし、生き延びるための仕事はちゃんとしてるから。
そんな宇宙人を見るような顔しないでくれ。
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