隆盛と勃興
やべえぞ、自転車操業だ!
やべえ。
なんか物凄いことになってる。コアの機能制御端末からは、パラメータアップとスキルアップの効果音がずーっと鳴り続けてる。
画面の数字は切り替わる頻度と桁上がりが早すぎ、情報も多すぎてビタイチ頭に入ってこない。
“けいあん、こーさん、だって♪”
「でかした! すごいぞブラザー!」
“へっへーん♪”
……という会話はあった。あったけどさ。ピロンピロンうるせえ。
「メイさん、こちらを見てください」
「ちょッ……なにこれ」
名前:エルマール・ダンジョン
クラス:C
総階層数:12
DHP:16129
DMP:18241
DPT:1040
Dスキル:【魔導防壁】【隠蔽魔法】【生成】【合成】【調達】【連結】【支配】
配置:
<アルラウネ>:1
<ハーピー>:14
<ワイルド・スライム>:91
<グリーン・スライム >:188
<レッド・スライム>:41
<ブルー・スライム>:16
<ピュア・スライム>:592
<ヌタジカ>:86
<NPC>:108
<アラクネ>:1
<シェルモール>:3
<ゴブリン>:4
<エーテルワーム>:41
<ハイブアント>:32
……なんか、いろいろ増えとる。
ダンジョン生命力、ダンジョン魔力、ダンジョン報酬点の爆増はケイアン・ダンジョンからの流入だろう。一気にランクアップして、文字通りの桁違いだ。
ダンジョンスキルも、名称が変わってるな。詳細を見ると、機能拡張というか制限が消えたことで名称がシンプルになったっぽい。
【魔導防壁】と【隠蔽魔法】は変わらず。【既成種生成】が単なる【生成】に、【魔物合成】も【合成】に変わってる。【物資調達】も、ただの【調達】になってるな。
あとは【連結】?
新たに付与されたこれは、どうやら転移魔法陣みたいな機能のようだ。いっぺん行ったことのある(座標を把握している)地点への行き来が可能になるというもの。自身でも配下の魔物でも同じ、というからつまり俺はいつでもケイアン・ダンジョン最深部まで攻め込むことができるのね。
逆に言えば俺たちも、Cランク以上のダンジョン爵やその眷属をエルマールの深層まで入れてしまったら、その後は一気に攻め落とされる可能性が出てくるわけだ。気を付けないとな。
「なあブラザー、<レッド・スライム>と<ブルー・スライム>って?」
“なんか、すらいむ、ぴゃーって!”
なるほど。わからん。被害報告はないのに<ピュア・スライム>の数がゴソッと減ってるので、たぶんそこからの“不確定進化”だな。なんかエルマールのダンジョン、スライムばっかな感じになってるな。
「アラクネとかも増えてるけど、どうしたのこれ?」
“えーと、こーさん?”
わかってないのかいな。
最深部まで到達したとき抵抗がなくなったので攻撃を止めたら、一部の魔物がすり寄ってきたらしい。ケイアン・ダンジョンの陥落でエルマール・ダンジョンに降った感じかな。
ブラザーが【使役契約】を掛けたというので、そのゴブリンと虫たちはウチで引き取ることになった。
“それじゃ、もどるねー♪”
「おー、気を付けてなー?」
単騎でDクラスのダンジョンを攻め落とすような<ワイルド・スライム>が気を付けなきゃイカンようなトラブルが発生するとは思えんのだが、こういうのは気持ちの問題だ。
「ケイアン・ダンジョンのマスターからメッセージが届いています」
「うん?」
「“こんなのずるい”」
反省しないタイプか。しかも、女の子だったか。このセリフをオッサンが言ってたらぶっ飛ばすけどな。
「どうしましょう」
「……知るか。ほっとけ」
互いに一体ずつの魔物を出して、相手のコアに辿り着いた方が勝ちというゲーム。“勝者が敗者のコア魔力を全て受け取る”という契約により、ケイアン・ダンジョンは魔力枯渇状態だ。
待てば自然回復するにせよ、その間は無防備になる。いま王国は冒険者たちによるダンジョン攻略のピークだから、たぶん陥落も時間の問題だろう。
「あいつら、完全踏破されたことは?」
「過去に二回」
「今度で三回目か。そんなら、まあ良い経験だろ」
「……そう、ですね」
マールの目が泳いだ。彼女にとっては無神経な発言だったか。
「ごめん」
「謝らないでください。わたしの場合は、自業自得なんですから」
「……ああ、うん」
「マスターを喪った責任はわたしにあります。甘さと無能が招いた結果です」
それは、そうなのかもしれんけどさ。いままでの経験を鑑みても、俺は完全踏破された責任の少なくとも半分、いやもっと多くがダンジョン・マスター本人にあると思っている。
「そもそも理解し難いんだけどさ。なんで十何回も陥落する羽目になったんだ? 有効な対策は? ちゃんと防衛していたら、そこまで何度も守り切れないってこともないと思うんだけど」
傷口に塩を擦り込むようなコメントなのはわかっていたけど、何か問題があるなら知っておかないと俺も同じ失敗を犯しかねない。
マールは少し迷った後で、俺を見た。
「エルマールは……ある意味、とても人気があるからです。……稀代の英雄になるために、必要な通過点として」
「は?」
当然ながら、冗談を言ってる風ではない。誇っているようでもない。むしろ諦観めいた何かを感じる。
「それは誤解というか、意味のない前提なんですけれども。王国で最精鋭や人外レベルにまで登り詰める冒険者なら、王都近郊の初心者ダンジョンを経験するのはただの必然でしかないんですから」
要は、AやらSランクになった連中にあやかった、聖地巡礼的な? 単なる腕試しの連中や、戯れに踏破してく適正レベル外のトップランカーがいるわけだ。慣習や慣例以外の法規制はないようなので、そらバンバン完全踏破もされるわな。
「そういう……踏破狙いの強者たちは、ダンジョンがある程度の成長を果たした……半年後くらいに現れることが、多いのですけれども」
なんとはなしに、嫌な予感が募る。
「気になることでも?」
「これです」
マールはコアを指す。<ハーピー>から送られてきた空撮映像だ。彼女たちは<ワイルド・スライム>と交代して、夜の偵察に出てくれている。
王都に続く夜の街道に、点々と松明の明かりが続いていた。なんとなく、渋滞した高速道路みたいな絵ヅラである。
「エルマール・ダンジョンが急成長を果たしたと、王都に知られたんじゃないでしょうか」
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