ワンス・アポンなタイム・インまいライフ
※(当初の予定だった10万文字……22万字ほどオーバーしましたが)
「……どうしてこうなった」
「ねー♪」
エルマール王国のエルマール城。城主メイヘム王は玉座の間で頭を抱えた。
いや、俺なんですけどねメイヘム王。
頼りになる我らがボーイズんガールズは、いまも騎士やら侍従やらとして仕えてくれているのだけれども。こんなこと誰も想像もしてなかったし望んでもいなかった。
「国を滅ぼした責任ていうけどさ……」
「うん。みっつ、ねー?」
「いや、待って待って。アーレンダイン王国に関してはギリ受け入れるけれども、モノル帝国とルスタ王国は勝手に自滅しただけだろうよ⁉︎」
「こーてー、ころしちゃったからー」
そうなのだ。崩壊するアーレンダイン王国を強硬手段で併呑しようと全軍を動かしかけた帝国は……首脳陣が、なぜか、揃って、何者かに、殺されてしまったのだ。現場を目撃したものはなく、殺した者の正体は不明。しがないダンジョン・マスターでしかない俺の耳に入ってきたのは、死体の首がどれも三回転くらいしてたっていう噂だけだ。
皇帝亡きの後のモノル帝国は、坂道を転げ落ちるように瓦解していった。いまは帝国に併合された国々が自主独立を謳って小国家群となり、ルスタ王国も巻き込んで群雄割拠の戦乱時代だそうな。
「……めでたしめでたし、か」
「おーさま、めでたい?」
「そうなー、俺はおめでたいさ。そうじゃなきゃ、こんなことはやってない」
帝国を襲った悲劇に震え上がったルスタ王国は、すぐにエルマール・ダンジョンへと国使を派遣してきた。用件は、“エルマール王国”の国家承認と相互不可侵協定を打診。どんだけ怯えたんだか山ほどの貢物を抱え、国使となった公爵は死を覚悟しての会見だったそうな。
そこから“エルマール王国”は既定事項として話は進み、メイヘム王はひっきりなしに会談や国交や協定を求められ、毎日のように書状と貢物が押し寄せることになる。
やめてくれ。城の前が渋滞してるじゃないか。
「エルマール城って、ダンジョンの上に無理やり建てちゃったからアクセス良くないんだよね」
「ねー。うま、めげちゃうー」
ある程度は舗装してルートも整備しておいたけど、街道から入り口までは数キロある。あまり重い荷を引いた馬車は、坂道で立ち往生したりする。そのときは<スライム>の衛兵部隊が手助けに行くのだけれども、他国の貴族からは魔物の襲撃と誤解されて面倒臭い。
「王都は王都として残ってるのがまた面倒臭いんだが……」
「もう、おしろ、ないのに、ねー」
王城は王族ごと潰れ、法務宮も遺棄されて貴族街は廃墟となった。西部三ダンジョンによる魔物の襲撃を免れた貴族もいたが、王都で暮らしていたのは領地のない法服貴族だ。国が滅びては生きる術を失う。
「おーさま、るみん、へった?」
「そりゃ、あれだけ支援すりゃな」
生き延びた国内の貴族たち――ダンジョン爵も含む――には、領主として領地を保全するように伝えた。彼らは“エルマール王国”の貴族ではないので、王命ではなくわかりやすい飴と鞭でだ。食糧生産が安定するまで、農業技術と資源の提供。見返りは求めないが、支援は期限と上限を決める。そして、民を飢えさせないよう厳命した。
身勝手な行いをしないように、悪い奴は首を捻られるぞと伝えておく。
エルマールと【連結】されたクーラック・ダンジョンは、半世紀もアーレンダイン王国を――むしろ後年は奸臣の懐と内通先の周辺国を――必要以上に潤し続けてきた食糧生産拠点だ。現在もエルマール王国を支えてくれてはいるが、農地の規模は大きく縮小していた。ダンジョン・マスターのギルベア主導で、農業研究施設として活躍している。
南領だけが穀倉地帯という偏りは消え、農業生産は各領に分散しそれぞれの独自性を持ち始めていた。
「ああ、我が君」
「げ」
「おーさま、みつかったー♪」
マール率いる侍女集団が、それぞれひと抱えもある書類を運んできている。
エルマールのコア分身体は、さらに機能を上げて、並行化と複数稼働が可能になった。エルマール・ダンジョンの二十四階層で極寒のなかオペレーションを行なっているのがアバター初号機で、エルマール城に詰めているのは二号機と三号機。それでも事務作業が終わらないというのが恐ろしいところだ。
流れを阻害するになってるのが何かは、言うまでもない。
「我が君、書類に決裁をお願いします」
「「おねがいします♪」」
「おい、またなんか大量に追加されて……」
「執務室におられなかったので、探しましたよ。残りをすべて、玉座の間に運びましょうか?」
「やめて」
どんだけ処理しても終わらないから、息抜きと称してここに逃げたんだけどね。俺ここんとこ朝から晩まで書類と打ち合わせに追われてるぞ。ダンジョンの機能制御端末に、ぜんぜん触れてない。それどころか、モニターもろくに見てない。
「どブラック企業から逃げてきた先でも、これか……」
どっか静かな作戦司令室でゆっくり【迷宮構築】したいな……。攻略してワクワクするような、成功しても失敗しても幸せになるようなダンジョンをさ。
「おーさま」
「ん?」
「にげる?」
愛すべきパートナーの<ワイルド・スライム>は、クスクスと笑いながら騎乗形態に姿を変える。
いまなら、誰にも見られてない。勘付いている者はいない……わけないわな。玉座の間を守る騎士姿のアハーマとラウネが、立てていた槍を引き寄せるのが見えた。アカン、バレとる。
スゴスゴと仕事に戻ろうとしたところで、エヘンと小さな咳払いが聞こえた。
「異常なし」
ラウネが静かに定時報告をすると、アハーマが穏やかに答えた。
「我らがいれば、問題はない。何もな」
ふたり揃って双子のようなふたりは、片目を開けてニッと笑った。見てないよという意思表示だろう。すまん、後で埋め合わせはするからな。
ブラザーが、つんつんと尻をつつく。いまがチャンスだ。騎乗形態スライムに乗って、俺は窓から飛び出した。
「よーっし、ぶっ飛ばせー、ブラザー!」
「あいさー♪」
とりあえず「第一部・完」な感じですかね。
いろいろ荒い印象(そしてタイトル詐欺ひでぇ)ですが、たまには銃火器なしも面白かったです。
続きは状況次第で考えます。ありがとうございましたー。
……さて(なんか考えてる)




