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フォー・ザ・ガール

カーマイケルさんが正。カーマインさん誰。

どっかで……と思ったら「武器庫アーモリー」のドワーフ王の秘書でした。

「なんて?」


 ちょっとよくわからない単語が聞こえた。あれか。自動翻訳的な感じで頭に入った情報と現地語ニュアンスの齟齬か。いや、衛兵隊長の二つ名とか正直どうでもいいんですけれども。


「バード、です。ひとつは飛翔系の魔物を使役する能力から。もうひとつは俗語で、“変わり者”あるいは“他人頼りの女の子”というような意味ですね」


 つまりは、魔物使い(テイマー)の地位や評価の低さを表すとともに、寄生――強者に擦り寄り同行することで地位とレベルを上げた無能――みたいな揶揄を含んでいるわけだ。

 中年衛兵隊長は自己顕示欲を固めたような金色装備で、妙に小綺麗な格好。細身の細面で、優男というよりも……なんていうの?


「おかしな性癖でもあるのかと思った」

“否定はしません”


 そこは否定してくれ。俺が呆れ顔で笑うと衛兵たちはビクッと身構えた。

 相手のホームである衛兵隊本部で、多勢に無勢で睨み合っているのに膠着状態なのは、衛兵が瞬殺されるのを目の当たりにしたせいだろう。


「まあ、いいや。ブラザー経由で【鑑定】を頼む」

“はい”


 さっき俺の【鑑定】は弾かれたが、ブラザーは俺より遥かに格上なので通ったようだ。すぐに情報がモニターへと映し出された。


名前:シュムテル

職業:使役魔導師

レベル:38

HP:2921

MP:4022

攻撃力:12

守備力:403

素早さ:323

経験値:21

スキル:【使役契約(テイム)中級】【暗器術初級】【魅了初級】【示威初級】


「低ッ⁉︎」


 いま俺のレベルは……たしか31。冒険者でいうとかろうじてAランク相当、ただしパラメータは軒並みこいつの倍近い。逆に言えば、なんでこいつはレベルだけ高いのかという話だ。

 つうかテイム以外は初級ばっかだな。戦闘能力は、ほぼ皆無だ。


「敵襲! 貴様ら、さっさと来い!」


 部下の衛兵たちの背後で、金髪の隊長はヒステリックに喚き散らす。さっさと前に出ろとばかりに尻を蹴り上げて、自分はどこかに逃げていってしまった。やっぱ、二つ名通りの他力本願ぶりだ。


「あれ、だれに、いってたのー?」

「たぶん、使役(テイム)してる魔物とか?」


 領府を上空監視していた<隠者拗梟(ハーミットオウル)>は仕留められ、<囀鳴躍雀(チャーピンスパロー)>も数を激減させている。他に何かいるのかもしれないが、いま気にするほどのことでもない。


 向かってくる衛兵たちを吹っ飛ばして、そのまま地下の牢に向かう。生死は確認していないが、行動不能にはなっているようだ。手足がひん曲がっている。殺すのとどちらが無慈悲なのかはわからん。

 階段を降りると、息を潜めているような気配があった。

 火の気もない石造りの牢は薄暗い。明かり取りの開口部からうっすら月明かり程度の光が入ってるだけ。


「カーマイケルさん、いるか?」

「いるかー?」


 返答はない。警戒しているのだろうが、いくつか並んだ牢のどれにいるのかわからん。こっちとしては片っ端から開けても良いんだけど、面倒な犯罪者がいても鬱陶しい。


“カーマイケルさんは、左奥の房ですね。緊張と警戒はしてますが、健康状態に大きな問題はありません”

「おーし、行こうか。ブラザー、そこ開けられる?」

「ほいさー♪」


 鋳鉄で補強された頑丈そうな扉が、呆気なく引っこ抜かれた。


「だ、誰だ」

「ああ、俺は……メイヘム。奥さんと娘さんから頼まれて、迎えに来た」

「おむかえ、きたー♪」


 信じないか。


「ヘルンさんとマインちゃんは、いま盗賊の集落にいる。あんたが来るかどうかは自由だけど、心配なんで俺たちはいっぺん戻るよ」

「待ってくれ、わたしも行く」


 よし、勧誘成功。ほとんど脅迫に近い誘導だったけどな。


「ミコラたち姉妹の母親は……」

“確保しました。いま<ピュア・スライム>が、押収されたカーマイケル商会の物資を回収中です”

「すごい。よくやった」

「やったー♪」

“ですがメイさん、脱出を急いだ方がいいです”

「敵襲?」

“はい。先ほど金髪衛兵隊長(バード)が呼んだものかと”


 ということは衛兵ではなく魔物か。案の定、遠くから妙な高周波音が聞こえてきた。


「なんか、くるねー?」

「ブラザーも聞こえるか。あのおかしな、キーンって音……」

“<呪詛蝙蝠(カースバット)>、ですね。翼長十五センチ(ソーニム)、体長が五ソーニムほどのコウモリです”

「そんなにちっこいのに、あの音?」

“数が尋常じゃありません。外では二百近い群れが乱れ飛んでいます”


 また禍々しいのが出てきたな。蝙蝠の超音波って、人間の耳では知覚できないはずなんだが。こっちの蝙蝠は違うのか、俺が人外領域に足を踏み入れたのか。ダンジョン・マスターって時点でお察しではある。


「バードっつうけど、蝙蝠は鳥じゃないぞ」

“王国で生物分類(それ)を気にするひとはいません”


 どうでも良い話をしながら、騎乗形態(ライディング)スライム(・ブラザー)の後部にカーマイケルさんを乗せ脱出の用意をする。


“スライム別働隊、回収終了。撤収を開始します”

「おーしブラザー、こっちも逃げるぞ!」

「あいさー♪」

“<カースバット>の群れがこちらに向かってきます。エルマール航空戦力、迎撃開始します”


 狭い街中を全力で逃げながら、俺たちは<カースバット>の襲撃に備える。


「ま、ままま待ってくれ、これ、は……ッ⁉︎」

「しゃべるなカーマイケルさん、舌噛むぞ!」


 ぞわりと、背筋に嫌な感じがした。振り返るまでもない。嫌なものが近付いてくるのだという確信めいた感覚。


「なあマール、この感じ……<カースバット>とやらの能力か?」

“呪詛、ですね。精神を浸食して朦朧・恐慌・錯乱などの状態異常を起こし、最悪の場合は廃人になります”


 ブラザーは関係ないし、俺もある程度の耐性がある、はず。問題はカーマイケルさんと、別働隊の連れている姉妹の母親だな。迎撃するにしても、逃げながらは拙い。数の暴力に対するなら尚更だ。

 盗賊集落まで持ち込んで、根こそぎ殲滅してやる。


「ぶっ飛ばせブラザー、全力で頼む!」

「あいさー♪」

【作者からのお願い】

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参考:簡易マップ描こうとして早々にメゲた。

挿絵(By みてみん)

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[一言] カーマイケルさんだったっけ、カーマインさんだったっけ?
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