盗賊の村
このお話にいただいたポイントが、ブラックマーケット以外の“銃と硝煙系”を超えました。
けっこう、あっさり(比較すると話数や期間は数分の一)。
もちろん評価いただけたのは嬉しいですが、あれか。やはり銃の出てくる話が好きな層は、狭いのか……
いまやエルマール・ダンジョンに収容された流民たちは、三百人を超える。その多くはエルマールのある中央領の住人らしいが。マールによれば流民少年少女たちのリーダーで訳ありっぽいルーインと年長組の多くは、この先にある南領の盗賊集落から逃れてきたのだそうな。
「そのむら、いくー?」
「あんまり、行きたくはないかな……」
<ワイルド・スライム>の問いに、俺は正直に答える。興味がないとまでは言わんけど。行ったらなんか色々と抱えてしまいそうで嫌。
だいたい、おかしいだろ。南領のダンジョンに国内最大の穀倉地帯があるとしたら。なんで流民が発生するんだよ。
考えられるとしたら、穀物の出荷を絞るとか値上げ交渉に出るといったダンジョン爵が主因の状況か……あるいは庶民層に卸さず溜め込むとか国外に流すとか流通価格を引き上げるという為政者側の問題か。
どのみち内政が上手く回っていないことは明白だけど。俺はそれに干渉する立場にない。利害がバッティングしていない以上、干渉しようとも思わない。国が滅びようとしてるんだ、領地も滅びるのは時間の問題だろう。
「じゃー、りょーふ、いくー?」
そう言いつつ、俺を乗せた騎乗形態スライムは停まったままだ。
口調こそ幼いものの、彼らは賢い。根が優しいし勘も良く、気遣いだってできる。ある意味で俺より、よほど大人なのだ。
本音は違うでしょ、とばかりに跨った俺の尻をふにふにと揺らす。やめて。
「……ちょっとだけ、覗いてみようかな」
「あいさー♪」
目の前で小さく開いたモニター。そこに映ったマールは、予想通りみたいな感じで笑う。わかってんだよ。だから聞き流してたのに。
“メイさんであれば、きっと無視することはないと思ってました。その想定でお教えした、わたしも同罪です”
「気にすんな。どうせ、ついでだ」
あの子たちの抱えてるのが何なのかは知らんが、ずっと放置してるのも違うような気はしてた。そこまで肩入れする気もないかったけどな。
「あのねー、ますたー」
するすると低速で移動を始めながら、ブラザーが俺に声を掛ける。
「るーいん、ぜんぜん、ねないの」
「え?」
「よる、ずーっと、おきて、ちいさいこ、みてるの。なんでー、って、きいたらね?」
「うん」
「よる、ねるの、こわいって」
人懐っこいブラザーに気を許したか、単に口が滑ったか。その夜、ブラザー――というか並行化した<ワイルド・スライム>のひとり――はルーインから打ち明けられたのだそうな。
「こわいの、いっつも、よるに、くるからって」
「……」
その“こわいの”が何を指してるのかは、わからん。魔物か人間か、それとも呪いの類か。なんにしろルーインはいまも夜は寝ずに過ごす。ずっと起きて子供たちを見守り、年長者が起きている昼間に短く浅い細切れの睡眠を取る。
「……くそッ」
「ねー?」
俺がボソッと漏らした罵りに、ブラザーは軽く相槌を打つ。もちろん気持ちは通じてる。俺もブラザーも、エルデラと同じ。“ああいうのが、大嫌い”なのだ。子供が我が身を犠牲にして、子供を守らなければいけないような状況が。そんな世の中が。それを放置した奴らが。
「どっち、だろねー?」
「さあな」
子供たちを虐げ、踏み躙ってきた元凶が。盗賊集落にあるのか。それとも領府か。ダンジョンかもしれないし、あるいはその全部かもしれない。
「行けばわかるだろ」
◇ ◇
目の前に現れたのは、ただの農村だった。周囲に魔物除けらしき木柵は組まれているけれども。思ったよりも開けていて建物もちゃんとしていて、特に隠れ里っぽくはない。
百メートルほど離れた岩場の上で、俺は盗賊集落を眺めている。<インヴィジブル・スライム>が偵察に出てくれたが、モニターに映し出された内部の映像はふつうの農村。行き交うひとたちは農夫にしか見えず、手にしているのも農具や農作物だ。
拍子抜けしていた俺に、モニターのひとつからマールが声を掛けてくる。
“北西側の少し大きな家が、集会所を兼ねた物資集積所になっているようです”
「盗賊のアジトか?」
“はい。盗賊集団の長と思われる男と護衛が数名、常駐しています。“収奪物”はそこに集められ、売却先に運び出されるようです”
詳しいな、と思ったら先回りして偵察してくれてたようだ。<半鳥女妖>の上空監視と<インヴィジブル・スライム>による潜入監視で、盗賊たちの動きとルーティンは既に把握しているらしい。
「やっぱりマールは、事前にここの存在を知っていたのか」
“すみません。<スライム>ちゃんたちから、断片的情報は集められていました。……それと、エルデラちゃんからも”
彼らはずっと、子供らのこと気遣ってるもんな。俺は、どこか他人事だった。【迷宮構築】に付きっ切りでそれどころじゃなかったし、頼りになる仲間たちが動いてくれるという甘えもあった。
俺の頭越しにやり取りがあったのを憤慨などしない。する資格もない。
“メイさんが南領に向かうと聞いたとき、てっきりそれが目的かと”
「買い被り過ぎだ。なんも考えてなかった」
南領に来たのは休暇を兼ねた敵情視察――そして可能ならクーラック・ダンジョンからの農業資源奪取――だったけど。他の地域には用がなかっただけだ。東端ダンジョンも、北端ダンジョンも要らん。
西端ダンジョンはちょっと必要、とはいえ自家消費分くらいならダンジョン力、ダンジョン魔力、ダンジョン報酬のいずれかを消費することで購入は可能だ。
南行きは、単なる消去法でしかない。
さて、目下の問題は盗賊集落に集められ運ばれていったものが何なのか、だけどな。そんなの、もうわかってる。話の流れからすると、他に選択肢はない。
「その“収奪物”って、子供なんだろ?」
少し迷った後で、我らがコア・分身体は沈んだ声で告げる。
“はい。いまも数名、囚われているようです”
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